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●トップクラスの長寿国を可能にした日本の医療水準
今回は、日本の医療における今後の課題についてお話ししたいと思います。
まず、日本の医療水準は第3話でお話した通り、世界1位の評価を受けています。そうした質の高い医療を、公的医療保険制度により全ての国民が享受することができます。その結果、平均寿命においては男性80.21歳、女性86.61歳、健康寿命においては男性71.19歳、女性74.21歳となっており、日本は世界トップクラスの長寿国になっています。
●少子・高齢化に伴う課題
しかし、将来も今までと同様に日本の素晴らしい医療、医療制度が継続できるでしょうか? わが国が抱える今後の課題を整理したいと思います。
まず、少子・高齢化の進展や医療技術の進歩があります。高齢化は、医療や介護を必要とする人やその必要量が増えること、年金の支払額が増えること、医療技術が進歩すると高額な薬剤や医療機器が出てくること、などを引き起こします。これらはいずれも医療費・介護費などの社会保障費を増加させる要因となります。
一方、少子化は、労働者が減り医療保険料や年金保険料を支払う人が減ることになります。つまり必要な財源は増えるのに、その財源を支払う人は減少する社会になるということです。世界最高の医療制度を今後も維持できるかどうか、非常に難しい局面にわれわれは立たされており、真剣に考えていかなければならない状況になっています。
具体的にみていきましょう。まず、少子・高齢化の進展についてです。2015年時点での人口は約1億2,600万人ですが、2060年には約8,674万人になると推計されています。また、人口の年齢階級別の内訳をみると、65歳以上人口の割合は、2015年は26.8パーセントだったものが、2060年には39.9パーセントになります。なんと人口の約4割が65歳以上となってしまうわけです。15歳から64歳の生産年齢人口は、4418万人で約50パーセントですから、この50パーセントで人口の4割を占める65歳以上を支えていかなければならないことになります。
●医療技術の進歩が生み出す新たな課題
次に、医療技術の進歩があります。最近では、医療の進歩に伴い、画期的な新薬が医療保険で使用できるようになっていますが、いずれも非常に高額な薬剤であるために医療費の増加が危惧されています。例えば、肝炎治療薬としてハーボニーという治療薬が開発されました。この薬は、従来治療に難渋する、あるいは副作用が強い薬剤を使用しなければならなかった肝炎が、副作用も軽く、ほぼ100パーセントの人が完治する画期的な薬剤です。しかし1日にかかる薬代は8万171円、1回の治療で673万円もかかります。
また、悪性黒色腫という最も悪性度の高い皮膚がんに対する抗がん剤としてオプジーボという薬も開発されました。さらにこの薬剤は肺がん患者の2~3割に高い治療効果があるといわれ、適応範囲が拡大しました。財務省の審議会では、肺がん1人当たり年間3,500万円、年間医療費では1兆7,500億円かかるという意見もありました。
ここで、わが国の社会保障給付費の現状をみてみましょう。2015年度の国の予算ベースでは、社会保障に関わる費用は116.8兆円となっていて、そのうち、医療費は37.5兆円で32.1パーセントを、介護費は9.7兆円で8.3パーセントを占めています。この社会保障に国民が使っている費用は、年々右肩上がりで上昇しています。2000年時点では約78兆円だったものが、2015年では約119兆円となっており、2025年には約145兆円になると推計されています。
今後、社会保障費は、医療、介護等を中心に増加することが見込まれています。国民皆保険を堅持していくためには、医療側からも、過不足のない医療を提供できる仕組みを提言する必要があると考えています。
●健康管理の仕組みを見直し、健康寿命を延ばす
大きな課題は、健康寿命の延伸です。平均寿命と健康寿命の間には約10年の差があります。持続可能な社会保障制度とするため、「社会から支えられる側」であった高齢者が、「社会を支える側」になれるよう、健康寿命を延ばし平均寿命との差を少なくすることが重要です。亡くなる直前まで元気で自立した生活が送れることが理想となります。
日本では赤ちゃんから高齢者まで様々な健康診断が実施されています。乳児健診、学校健診、事業主健診、特定健診、高齢者健診などです。生まれてから亡くなるまで様々な健康診断が生涯にわたってあるにもかかわらず、それぞれの健康診断の法的根拠や所轄官庁が異なっているため、せっかくの健診のデータが一生を通して継続していません。生涯の保健事業を体系化し、個人の健康情報を一元化することで、個人が健康の管理をしやすい仕組みをつくる必要性をわれわれは訴えています。


