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●世界から見た医療評価、健康状態の自己評価
今回は、日本の医療の評価のお話をしたいと思います。まず、世界から見た日本の医療の評価です。
OECD(世界経済開発機構)が世界各国の医療の個別評価を行なっており、それをカナダが、一つの表にまとめたのがこの図です。日本の医療の現状がよく理解できると思います。
平均寿命、健康状態の自己評価、がんや循環器疾患、呼吸器疾患、糖尿病、精神疾患による死亡率や乳児死亡率など11項目について、各国の状況をAからD評価をつけてみたものです。通知表なので、Aが一番よくDが最低です。
日本は、呼吸器疾患の死亡率がC以外は、死亡率についてはすべてAで、各国の中で最もすぐれています。それに比較して最先端の医療で常に注目されているアメリカは、Aが一つもありません(「健康状態の自己評価」以外)。
一方、「健康状態の自己評価」という項目を見てください。アメリカをはじめ大部分の国が「A」をつけています。それに対して、日本の評価は何だと思われますか? 先ほどのように素晴らしい医療の成果が出ているにもかかわらず、なんと過去30年間、「D」評価なのです。ちなみに、健康状態の自己評価が「D」の国は、17カ国中、日本だけです。
日本ではこれだけ良い医療が提供されているにもかかわらず、自己評価が「D」というのはどうしてなのでしょうか?
●大腸がんの5年生存率、日本は68%で世界一
次に、がんの治療成績を表すものの一つに「5年生存率」があります。手術を受けた患者さん100人の経過を追っていると、時間が経つにつれ、再発やその他の原因で亡くなる方が出てきます。大腸がんの再発の多くは、手術から5年以内に発見され、それ以降に再発が起こることはわずかです。手術の後5年以内に再発しないことが、完治の目安になります。
そのため、手術から5年後に生存している患者さんの割合を「5年生存率」といい、がんが「治る確率」の目安として用います。例えば、手術から5年の間に30人の方が亡くなったとすると、5年生存率は70パーセントとなります。ただし、亡くなった方の中には、他の病気やその他の原因で亡くなった方も含まれています。がんのステージいわゆる進行の度合いによって再発率が異なるため、5年生存率も、がんのステージによって異なります。
それを踏まえて大腸がんの5年生存率の世界各国比較を見てみましょう。大腸がんは、世界でも最も頻度の高いがんの一つです。そのため、多くの国で大腸がんの治療が行なわれています。
OECDが、ほぼ同時期の大腸がんの5年生存率をまとめたデータがあります。日本の5年生存率は68パーセントで、OECD参加国の平均を約8パーセントも上回って第1位となっています。日本の大腸がん治療成績は、これらの国々を上回り、世界のトップとなっているのです。
●盲腸手術、NY(米)150万超、日本30万円
次に費用面について見てみましょう。一例として、虫垂炎(盲腸)の手術をした際、各国でどのくらい費用がかかっているのかを見てみます。
まず、最も費用がかかるのがアメリカのニューヨークで手術をした場合です。病院によって費用が違いますが、152.2万円~440.9万円ほどかかります。入院日数も1日から3日と、非常に短期間の入院で、これだけの費用がかかるのです。フランスのパリで手術を受けた場合、22.1万円~97.3万円ほどかかります。スペインのマドリッドで手術を受けた場合、48.6万円~91.8万円ほどかかります。
では、日本はどうかといいますと、だいたい30万円で手術ができます。ご本人の負担は、3割負担だとすると、実際にはこれの3割ということになります。日本はどの国よりも少ない費用で手術を受けられるのです。
●日本の高品質低コスト医療を「ランセット」が賞賛
日本の医療は平等で、患者さんにとっても自由で、質が高いものです。しかもそうした医療を、すでに世界一の高齢化率であるにもかかわらず、先進諸国の中でも低コストで提供しています。わが国の医療は高いパフォーマンスで提供されているといえるでしょう。
『ランセット』という世界で最もよく知られ、また評価が高い医学専門誌があります。この『ランセット』が2011年9月に、「国民皆保険達成から50年」と題した日本特集号を組みました。
2011年4月1日に、日本は国民皆保険制度達成から50年を迎えました。日本は比較的短期間で、平均寿命などいくつかの健康指標において、世界一となりました。この特集号では、こうした保険分野での日本の功績をたたえ、短期間で長寿社会を実現した要因や、国民皆保険制度の長所と限界、高品質低コスト医療の実態、急速な高齢化に対応する介護保険制度、保健外交における日本の優位性と役割などが書かれています。


