●皮膚は最も外にあって目に見える臓器
―― 皆さま、こんにちは。本日は椛島(かばしま)健治先生に、皮膚とかゆみについてお話を伺いたいと思っております。椛島先生、どうぞよろしくお願いいたします。
椛島 よろしくお願いします。
―― 椛島先生は講談社のブルーバックスで、『人体最強の臓器 皮膚のふしぎ』という本を書いていらっしゃいます。先生、これは最新の皮膚の知識がとても面白く分かる本で、副題にありますように、皮膚というのは「臓器」だといわれています。「皮膚=臓器」というのはまだなかなかピンと来ない方も多いと思うのですが、そこを最初にお聞きすると、これはどういうふうに理解すればよろしいですか。
椛島 そうですね。まず、この本を書いた経緯というのは、皮膚科の教科書として皮膚科医向けや医学部の学生向けというのはたくさんあるのですが、一般向けの書というのは実は全然ありません。そういう中で、皮膚というものの大切さを知ってもらいたいということがきっかけで書いたのです。
「五臓六腑」とよくいうように、臓器というと身体の中にある胃や肝臓のように「臓」という漢字が付いたものが臓器だというように、なんとなく皆さんは思っているかもしれません。しかし、一つひとつ完結した役割を持つのが臓器であるわけです。
その中で、皮膚という器官には汗を作る、脂を作る、バリア機能を果たすなどのさまざまな役割がきちんとあり、(体の)中にある臓器を守るものとして最も外にあって目に見える臓器ということです。
そういう意味で、皆さんには臓器という意識はあまりなかったかもしれませんが、身体の中にあるいろいろな役割を持つ器官の中で、非常に重要な一つの臓器であるということを理解してもらいたいと思って、この本を書かせていただきました。
―― これは、本には本当に詳しく書いていらっしゃいます。例えば免疫の機能を果たすこと、外からの侵入を防ぐということでも非常に大きな役割を果たすことで、そのあたりはぜひ本のほうでお読みいただければと思います。
●「かゆみ」の正体を科学する
―― 早速ですが、今日お聞きしたいテーマの一つが「かゆみ」ということです。かゆみについては、実は最近になってようやく解明が進んできたので、まだまだ分からないところが多いと、先生はお書きになっていました。私などは昔、「かゆみというのは弱い痛みである」と聞いたことがあったのですが、それも否定されていると先生はお書きになっていらっしゃいます。かゆみについて、最新の研究ではどのように捉えればいいようになっているのでしょうか。
椛島 そうですね。わたしが医学部の学生だった30年ぐらい前には、「かゆみというのは弱い痛み」と実際に教科書に書かれていて、なんとなく自分もそれで納得していたところもあります。
近年、痛みやかゆみ、熱いや冷たいといった皮膚で感じる感覚について(分かったことがあります)。実は皮膚には非常にたくさん神経が張り巡らされているのですが、10種類ぐらいの細い神経のサブタイプというようなものが存在しています。その中には、痛みを感じる神経やかゆみを感じる神経が、別々に独立して存在しています。それで、痛みとかゆみというものは独立したものであるということが、ようやく最近分かってきたのです。
ただ一方で、例えばかゆいときに、痛みを感じるようなことがあるのではないでしょうか。また、つねったりして「痛っ!」と感じるとかゆみが収まったりもしますよね。そのように痛みとかゆみというのは、いろいろなところでクロストークといいますか、インタラクション、つまりお互いがコミュニケーションを取っているのですが、神経そのものはまったく別の神経繊維がその伝達を果たしています。すなわち、痛みとかゆみは独立したものであるということが分かってきました。
●抹消性のかゆみと中枢性のかゆみ
椛島 また、かゆみについてですが、(皆さん)どうでしょうか。われわれが日常で感じるいろいろなかゆみには、蚊に刺されてかゆいと感じたり、じんましんが出るような人はじんましんのとき(にかぶれたり)、アトピー性皮膚炎の人はかぶれたりして、かゆい場所が明確に皮膚にあって、そこがかゆくなる。そういうものを、いわゆる「末梢性のかゆみ」といいます。末梢性すなわち外側のかゆみです。
一方で、イライラすると何か身体が無性にかゆくなる。あるいは病気でいうと、例えば腎臓が悪くて透析をしている方、肝臓が悪くて黄疸が出ている方、あるいは痛...