●アレルギーの始まりは「経皮」から
―― それでは先生、つづきまして、アトピー性皮膚炎についてお話をうかがいたいと思います。
先生がお書きになった『皮膚のふしぎ』に、非常に印象深いお言葉として、「アレルギーマーチ」という言葉がありました。アトピー性皮膚炎というのは主に出生直後から幼児期に発症するということでしたが、発症してしまった方が次々に、いろいろなアレルギー症状を起こしてしまうというお話でした。さらに、私もこれはまったく存じ上げなかったのですが、たとえば食物アレルギーなども、いわゆる「経口(口から食べたもの)」よりも、「経皮(皮膚から入って起こす経路)」で反応するほうがかなり大きいのではないかというお話も書いてありました。
このあたりは非常にわれわれの常識を覆してくれる内容だと思ったのですが、そのあたりのお話をいただいてもよろしいでしょうか。
椛島 はい。まず、一般的にアレルギーというと、皮膚ではアトピー性皮膚炎、肺ではぜんそく、目では結膜炎、鼻では鼻炎、腸管では食物アレルギーです。このように、アレルギーはいろいろな臓器で起こるわけですが、基本的にアレルギーというものは、異物を排除しようという免疫機構と考えていただくといいかと思います。
例えば花粉が目に入れば、涙を流して花粉を流す。鼻に入れば、鼻水を出して花粉を外に出そうとする。皮膚の場合は、引っかくことで皮膚に入ろうとするものを除こうとする。呼吸器だったら咳が出る。そうやって異物を除こうとするのがアレルギーなのです。
これまでは、各々違う臓器で起こるアレルギーは独立して起こっているというように、疫学的には考えられていました。ただ、子どもの頃にアトピーだった人は将来的に食物アレルギーや鼻炎、ぜんそくなどになりやすいことも同時に分かっていて、それを今までわれわれは「アレルギー体質」という言い方をしていました。
●皮膚から始まる食物アレルギーのメカニズム
椛島 ただ、その実態はあまりよく分かっていなかったのですが、近年になって(状況が変わろうとしています)。食物アレルギーですが、子どもでは牛乳アレルギーや卵アレルギーを起こすことが結構多いのではないかと思います。
例えば牛乳アレルギーがなぜ起こるかというと、赤ちゃんはミルク(牛乳)をあげても(よく)こぼしますね。口にきれいに入れきれず、口の周りにこぼしたり、手で触ったりして、皮膚にミルクがいっぱいついていきます。また、赤ちゃんは皮膚がまだ非常に弱いので湿疹をよく起こします。口の周りが真っ赤になるような状態で、ミルクをこぼすことも多いと思います。そういうときに、ミルクが皮膚を介して身体の中に入ってしまいます。
そうすると、人間の身体は、自分と違うものが入ってくることで、それを除こうとする免疫機構が働きます。これはすなわちIgE(免疫グロブリンE)というものを介したアレルギーが誘導されるということです。その牛乳に対して、経皮的(皮膚を介して)に「感作」といってアレルゲンが暴露されることで、牛乳に対するIgEができます。
そのIgEは血中をぐるぐる回り、腸管にも行きますし、鼻にも行くし、目にも行くわけです。そのように、腸管にたくさんIgEがある状態で牛乳を飲むと、牛乳が腸管を介して吸収されたときに、そこでアレルギー反応を起こしてしまう。こういうことで、赤ちゃんのときにミルクをこぼすことで、皮膚炎として牛乳アレルギーが起こると、その子は腸管において食物アレルギーになりやすいということなのです。
ですので、昔は牛乳アレルギーのお子さんには「牛乳を飲むな」ということが治療としてよくいわれていましたが、むしろ逆にこぼさないできれいに牛乳を飲めば、ミルクに対する「免疫寛容」、免疫を抑える方向に行くのです。
もう一度、少し話を戻しますと、皮膚から入ってくるアレルゲンに対しては除こうとしますが、基本的に腸管というものは食べ物を吸収しないといけない。吸収するときには、自分ではないものを身体の中に受け入れないといけないわけです。腸管からくるものに対して、免疫というのは基本的に抑えようとしますので、そちら(経皮ではなく経口)をメインにさせるような方向にもっていけば、食物アレルギーは、実は治ってしまいます。
食物アレルギーの症状があまりにも激しい場合は別ですが、症状がそれほどきつくない場合には、こぼさないように少しずつ、牛乳を飲んでいったりするほうがむしろ食物アレルギーの治療につながるということが、今の治療方針の一つです。
●食物アレルギー予防にもなるスキンケア
椛島 もう一つ重要なポイントがあります。皮膚を介して暴露されたアレルゲンが食物アレルギーになるので...