●皮膚常在菌――善玉菌と悪玉菌のバランスが重要
―― それではもう一つ、未来の皮膚医療ということについてもお話をお聞きしたいと思います。こちらの『皮膚のふしぎ』の本でやはり非常に印象深かったのが、「皮膚常在菌」というのでしょうか、皮膚に常にいる菌があるというお話です。
腸内細菌などというものは聞くことが多いのですが、皮膚にも常に細菌というものがあって、いろいろな働きをしている。そこに注目することで、治療の方向もいろいろあるのではないかということを先生がお書きになっていました。ここを簡単に教えていただくと、どういうことになりますでしょうか。
椛島 たぶん、この番組(テンミニッツTV)を見られている方も腸内細菌という言葉はよく聞かれているかと思います。具体的には、例えば潰瘍性大腸炎という病気の方に、健康な方の便に存在している腸内細菌を口から入れれば、その潰瘍性大腸炎がよくなる(ことがある)。(もちろん)全員ではないのですが、そういう方がおられるというような報告がなされてきたことから、腸の中にいる菌が健康あるいは病気に関わっているということが分かってきました。
それと同様、皮膚にもいろいろな菌がついています。これは、不潔だから、あるいは清潔にしているからということではなく、多様な菌、細菌や真菌、ウイルスなどいろいろなものがついていて、互いに共存し合って、われわれの健康な皮膚を維持しているのです。ですから、菌がまったくない状態というのは、実はあまり皮膚にとってはよろしいわけではないのです。
そういう中で、例えばアトピー性皮膚炎になると、黄色ブドウ球菌という「悪玉菌」といわれる菌が増えることが分かっています。一方、表皮ブドウ球菌という菌をはじめとする「善玉菌」というものがあり、そういう菌が多い場合には、皮膚のバリアや炎症を抑えてくれる。だから、善玉菌と悪玉菌のバランスが崩れるとアトピー性皮膚炎が増悪するというようなことが分かってきています。
そういうところに注目して、日本でもそういう領域を研究されている先生方がおられますし、海外のほうでも臨床研究が進んでいます。アトピー性皮膚炎の患者さんに善玉菌を植え付けると、菌のバランスがよくなって、一部の方では症状がよくなったという報告が散見されます。(ただ、)まだまだきちんとした結論まで至っていませんので、すぐに臨床応用できる状態ではありません。
また、今の私の話を聞いて、アトピーの方が、「私の皮膚にはすごく嫌な菌がついている」ときれいに手を洗ったり、消毒しないといけないといって、無闇にからだを洗ったり消毒をしたりする必要はまったくありません。
今の時点では、まったくないのですが、将来的にはそういう菌をターゲットとした治療方法というものが、アトピー性皮膚炎のみならず、いくつかの病気で試みられていく可能性は十分あるかと思っています。
●アトピーと衛生仮説から個別化医療へ
―― 非常に興味深いお話ですが、最近、アレルギーが増えてしまった一つの仮説というか、「衛生が進みすぎた」という説があります。先生は(本の中で)「衛生仮説」とお書きになっていました。あまりにもきれいになりすぎ、あるいはきれいにしすぎていることが、(アレルギーが)増えている要因の一つではないかというお話もありました。いい菌との共生といいますか、いろいろなものと共生していくという発想で考えていくと、また違った知恵なり治療法が出てきそうですね。
椛島 はい、まったくその通りですね。やはり世の中には、いろいろふしぎなことがあります。例えば昔に比べると、この20年ぐらいでアトピー性皮膚炎が増えてきました。なぜ増えてきたのかといういくつかの理由を考えると、もちろん一つは、エアコンを使ったりすることで空気が乾燥して、それがバリア機能を妨げ、アトピーをひどく増やしたのではないかという考え方があります。
また、今おっしゃった通りで、きれいにしすぎることで、逆に身体の免疫反応というもののバランスが、アレルギーのほうに偏ってしまって、ぜんそくやアトピーが増えた。そういうような論文もいろいろ出てきています。
では、身体を不潔にすればアトピーが治るかというと、そうではありません。また、その他にも例えば汗があります。汗が出てそれがヒリヒリすることでアトピーが悪くなるとか(といわれることがありますが、)ただ、汗をかくことには、実は肌をしっとりさせるという重要な面もあります。
本当にいろいろな皮膚の機能や環境というものが、非常に繊細にわれわれの皮膚の状態を調節していますので、 各個人...