●キャリアシステムの正確なナノサイズ制御
3番目の話です。ここで医薬品開発の歴史を眺めてみたいと思います。
私たちが普段使っている薬は、いわゆる低分子の薬です。歴史上、人類が初めて行った有機合成は尿素です。そして、人類初の医薬品合成はアスピリンです。なんとその開発にほぼ70年かかっています。それから、今のオプジーボもそうですが、抗体医薬はモノクローナルの作成技術ができてから、世界初の抗体医薬ができるまで23年ほどかかっています。核酸医薬もいろいろなものがありますが、RNA干渉の発見から世界初のsiRNA医薬まで20年ほどかかっています。つまり、薬の開発にはすごく時間がかかるのです。
ただ、ここで注目していただきたいのは、核酸医薬の分野はこれからどんどん伸びていくと予想されていることです。
どうしてかというと、今はヒトのゲノムが全部読めるからです。そのうちタンパク質に翻訳されている部分を「エクソン」といいますが、これは全体のわずか1.5パーセントです。今私たちが使っている薬は全部このタンパク質を標的にしています。要するに、この全部のゲノム情報のわずか1.5パーセントのところを対象に薬が開発されているのです。
ところが、このエクソン以外の領域にいろんな病気の原因があることが最近、明らかになってきました。これはタンパク質に翻訳されないので、低分子の薬ではなかなかこういうものをターゲットにはできません。ここは核酸ということで、やはり核酸に結合する核酸医薬が有望だろうとなります。
ただ、核酸医薬にはいろんな課題があります。標的組織の制約が非常に大きいのです。特に血液・脳腫瘍関門を裸で通ることはほとんどできません。そこで、これを解決するのにドラッグデリバリーシステム(DDS)が必要なのです。
一つは、今お話をしたリガンドを介したトランスサイトーシスです。実はもう一つあり、それはサイズチューニングです。
言い換えると、キャリアシステムの正確なサイズ制御です。
(スライドにあるように)この隙間はなかなか通れませんが、それでもサイズを小さくしてあげれば通れます。具体的にどれぐらいの小さくすればいいのでしょうか。あまり小さくすると腎臓から出てしまいます。あとでお話ししますが、サイズは抗体と同じにします。だいたい18~20ナノメートルにします。抗体は集まることができるので、そのぐらいのサイズにすればいいのです。
●狙うべきは抗体サイズ、それに合わせて作ったのが「ユニットPIC」
核酸医薬は大きく分けると二つあります。一つは細胞の中で治療に関係するタンパク質を作るほうです。この役割を担うのがDNA、あるいは今ワクチンで話題になっているメッセンジャーRNA(mRNA)です。もう一つは疾患の原因であるタンパク質を減らす核酸医薬です。これがsiRNA、あるいはアンチセンス核酸です。
ここではsiRNA、あるいはアンチセンス核酸に的を絞ってお話をしたいと思います。
siRNAのサイズはだいたい4ナノメートルで、これはすぐに腎臓から出てしまいます。今までお話ししたポリマー(高分子)ミセルが40ナノメートルです。実はこの二つの間が空いているので、ここが狙い目です。なおかつ、実用に持っていくためには作り方が簡単でなくてはいけません。つまり、作り方が簡単で、サイズがほぼ抗体と同じというのが狙うべきところです。
そうやって作ったのが「ユニットPIC」です。
これは一体何なのか。そのことについてお話しします。
実はsiRNAはアニオン性(マイナスチャージ)です。そのため、反対チャージ(プラスチャージ)を持ったカチオン性のポリアミノ酸にポリエチレングリコールをつなげたポリマーであるブロック共重合体を混ぜると、静電相互作用でミセルができます。
これがすっとできるのではなく、まずは電荷を中和する最小の単位の会合体ができます。これをユニットPIC、あるいは「ポリイオンコンプレックス」といいます。これが2次会合してミセルになります。
したがって、2次会合を防いでユニットPICだけを取り出せればいいのです。
そうやって私たちが作ったのがこのユニットPICです。どういうことをしたかというと、このポリエチレングリ...