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ナノマシンを理解するため重要な3つのポイント

ナノテクノロジーでがんに挑む(7)ナノマシンの実用化に向けて

片岡一則
ナノ医療イノベーションセンター センター長/東京大学名誉教授
情報・テキスト
がん治療での実用が大いに期待されているナノマシン。重要なポイントは「細胞レベルのデリバリー」や「スマート機能」など、3つほど挙げられるが、一方で気になるのは人体へのリスク、つまり安全性についてだ。そのあたりはどうなっているのか。実用化までどの程度の時間がかかるのかなどとともに伺った。(全8話中第7話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:09:16
収録日:2021/05/12
追加日:2022/04/09
キーワード:
≪全文≫

●ナノマシンによるがん治療の特徴とイメージ


―― ありがとうございます。いくつか質問させていただいて良いでしょうか。

片岡 どうぞ。

―― まず一つ目は、今回のナノマシンによる治療のイメージについてです。例えばこれまでの抗がん剤治療のイメージは、体全体に絨毯爆撃のように薬をばらまき、その中の一部ががんに届くようなイメージでした。今回は、ピンポイントで患部のがんにダイレクトに届けるという工夫がなされているというイメージが近いでしょうか。そのあたり、どのようなイメージが正しいでしょうか。

片岡 そうですね。抗がん剤の場合は、体に入れるといろいろなところに行きます。今は分子標的薬とか、いろいろなものが開発されていますが、そういうものが完全にがん以外の組織で何も悪さをしないかというと、そういうわけではありません。あるいは、血中に入れたときになかなか溶けないとか、肝臓や腎臓で失われてしまうという問題が起こります。これは専門用語で「アドメ(ADME)」といいます。

 いってみれば、ナノマシンは体の中の薬の分布を工学的に制御する技術です。ですから、ピンポイントというとちょっと語弊があり、本当にそこにしか行かないわけではありません。他のところにも行きますが、できるだけがんのところに行かせる割合を増やすというのが一つ目の重要なポイントです。

 二つ目ですが、特に核酸医薬のメッセンジャーRNA(mRNA)の場合は、がんの組織に行っても、がん細胞の中には入っていけません。だから、それを確実に細胞レベルで細胞質に届ける「細胞レベルのデリバリー」が二つ目に重要なポイントです。ですから、まずこういうものを使って、全身の薬の分布を制御します。それから、薬によってはそもそも細胞に入れないものがあるので、それを細胞質に送り届けて機能させるのです。

 三つ目ですが、こういうものを「スマート機能」といいます。何となくそこに行って何となく薬を出すのではなく、pHが変わる、光が当たる、あるいは超音波が当たるなどの外部からのエネルギーや、内部の化学物質の濃度変化に応答して薬を出したり、止めたりする機能を持たせることができるのです。


●ナノマシンのリスクと安全性


―― ありがとうございます。非常に素人の質問になってしまいますが、実際に患者として受ける場合に心配になってくるのは、こういうナノマシンを体に入れて、実際に何も害が起きないかどうかということです。講義の中でも、何もしないと血栓ができてしまうものが、いろいろな工夫で血栓もできず、サラサラ流れる画像を見せていただきました。リスクとして考えられるものには、どのようなものがあるのでしょうか。

片岡 それはおっしゃる通りで、ナノマシンというか、高分子ミセルそのものが毒性を引き起こすのは当然良くないことです。大事なことですが、これは自動解放・自己組織化で作っているので、例えば薬が出てしまうと、ばらけてしまいます。ばらけてしまうと、1個1個のポリマーは主要な部分がアミノ酸でできているので、まず分解してしまいます。分解しなくても、ポリマーの分子量は1万ぐらいですから、腎臓から抜けていきます。そのため、ナノマシンや高分子ミセルを作る素材の選択はすごく重要で、体に優しい素材を使います。そして、用が済んだら構造がばらける工夫をしています。

―― つまり、人体に害になる可能性をかなり減らしているということでしょうか。

片岡 今、抗がん剤を搭載したミセルは臨床試験に入っていますが、ポリマーが原因と考えられる副作用は特に出ていません。


●迅速な実用化に向けて適切な臨床試験を設計する


―― それは実際に医療を受ける側としては非常に心強いお話です。今ちょうど臨床試験も行われているということですが、実際にこういう医療が一般化する、普通の方々が受けられるようになるのはいつになるのでしょうか。

片岡 よく聞かれるのですが、この臨床試験がいつ終わる予定なのかを正確に答えるのはなかなか難しいのです。臨床試験は、スケートでいうと規定問題のようなものです。決まったルールに従って、がんの種類とか患者さんの状態も全部決められていて、そこで統計的に有意な差をきちんと出して、承認を受けるプロセスになります。最初の臨床試験の設計が完璧でないと、やり直す必要が出てきます。それで足踏みしてしまいます。

 その関門を越えると、今度は実際に薬として世の中に出ていきます。そうすると、いわゆる「適用拡大」といって、違う局面でこの薬を使ってみようという選択肢が出てきます。そうすると、より最適な治療法が見つかっていき、そうやって新しい形態の薬が世の中に出ていきます。これは抗体医薬でも同じです。

 今、ナノ医療は最初の段階です。そのため、臨床試験も非常に時間がかかっ...
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