●ナノ医療分野の研究が最も行われているのは日本
―― ナノマシンとは別の例ですが、今回のコロナワクチンでも非常に国際的な競争がなされました。ナノマシンの世界的な研究の状況や医薬化・製薬化の競争の状況はどうなっているのでしょうか。
片岡 世界的にもこの分野の研究は盛んです。例えば、いろいろなデータベースに“nanomedicine(ナノメディシン)“という項目を入れて論文の数を検索すると、1990年代の後半ぐらいから増え続けています。ということは、世界中でいろいろなところがこういう分野の研究をしているということだと思います。非常に関心は高まっていて、研究開発もずいぶん進んできています。
―― これも素人の質問になりますが、その中でも特に進んでいる国はどこですか。
片岡 私たち自身(日本)はかなり進んでいると思っています。というのは、たぶん臨床試験に入っているこういうナノ医療の数は、私たちが一番多いと思います。
―― そうなると、今後がますます楽しみですね。
片岡 そういう点で競争は激しいですが、できるだけ早く実用化したいと思っています。ですから、いわゆる論文を書くこととは少し違っています。論文だといろいろなデコレーションをして、すごく複雑なものを作りたがります。しかし、実際やってみると分かりますが、本当にヒトの患者さんに使っていただくうえでは、まずより多くの量を、再現性よく、
「GMP(Good Manufacturing Practice)」といって完全にクリーンな環境で作らなければいけません。そして、保管できないといけません。だから、結局シンプルなほうがいいのですが、シンプルにすると機能が限定されます。そのあたりのバランスが難しいのです。
●重要なのは核酸医薬とDDS技術の進歩の合致
片岡 今回のシリーズ講義でも「ユニットPIC」という話が出てきましたが、あれを見てもシンプルです。混ぜるだけでいいので、製剤技術は何も要りません。なぜ最初からそういうことをやらなかったのかというと、実は核酸医薬の進歩があります。初期の頃の核酸医薬は天然の核酸で作っていたので、酵素ですぐ壊れてしまいました。そして、細胞膜を通れませんでした。それが、核酸の化学修飾がどんどん進んでくると、核酸自体の酵素耐性が上がってきて、場合によっては細胞膜をそのまま通過できる機能が出てきます。
ところが、逆にそういう機能を入れると...