●ナノマシンによるがん治療の仕組み
では、こういうナノマシンがどうやって血中からがんの組織の中に移行できるのか、次のアニメーションで示したいと思います。
※以下、動画より
《血管と細胞の間には酸素や栄養素が通る小さな隙間があります。抗がん剤だけだとこの隙間を通れるので正常な細胞にも入ってしまいます。一方、抗がん剤を包んだミセルのナノカプセルは直径50ナノメートル、正常な細胞には入りません。ところが、がん細胞の場合は血管との間に100ナノメートルという大きな隙間があります。ナノカプセルはがん細胞にだけ取り込まれていきます》
がんの組織の血管は、正常な組織に比べると隙間が多いのです。そのため、ステルス機能が高くてぐるぐる回るナノマシンは、がんの組織の血管に来ると、その隙間からがんの中に入っていきます。
こんな話をしても、「これは漫画ではないか」「本当にそんなこと起きるのか」と思いますよね。ですから、それを実際に観察しました。
そこで使ったのは、高速走査型共焦点顕微鏡です。まずマウスにがんを移植します。そして、蛍光で標識したミセルを尾っぽの静脈から投与します。がんのところに本当に集まると、蛍光なので光ります。この顕微鏡を使うとどのぐらいきれいに見えるのかというと、スライド(右部分)に示したようにきれいに見えます。
これは直系が数ミリのがんです。緑ががん細胞の核で、黄色が毛細血管です。これぐらいきちんと見えます。
このシステムを使って実際に観察したのは膵臓がんです。膵臓がんは、血管の密度が低いうえに厚い間質で覆われています。(左下の画像の)濃い青の部分はがん細胞のクラスター、赤は間質、緑は血管です。血管は間質の中にしかなく、がん細胞の集まるところにはありません。そのため、ここ(血管)から出ていっても、この厚い間質の中を通っていかないと目的地まで到達することが難しくなります。
では、ミセルを投与したらどうなるのかというと、これが実際の観察画像なので、(動画内で)赤い矢印を追っていってください。赤い矢印のところがフワッと光り、また閉じます。ランダムにこういうベントのようなものが見えます。これは高速度撮影なので、1回光って閉じるのにだいたい1時間です。そのため、ゆっくりと開いてゆっくりと閉じるのが間欠的見えるわけです。
これをもう少し高倍率で見ると、上のスライドのようにもっとはっきり見えます。左側が30ナノメートル(の高分子ミセル)で、右側が70ナノメートル(の高分子ミセル)です。どちら(の高分子ミセル)も出てきますが、よく見ると、70ナノメートルのほうは出たところで止まってしまっています。ところが、30ナノメートルのほうは出てからパーッと散っていきます。つまり、サイズを30ナノメートルまで制御すると、がんの間質の中を通って中まで入っていけることが分かります。
これを模式図で描いたのが上の図です。“Static Pore”と書いてありますが、小さな穴は30ナノメートルでも通れます。しかし、70ナノメートルまで大きくすると通れないので、ベントでしか出ていけません。ベントで出ていってもそこで止まってしまいますが、30ナノメートルだったらずっと奥まで入っていくので、有効にがん細胞に薬をデリバリーして治療することができます。
これは縦軸が腫瘍のサイズ、横軸が日にちです。ですから、30ナノメートルまでミセルのサイズをダウンサイジングすると、ちゃんとがんの増殖を抑えることができることが分かりました。
もっと小さくしたらどうなるかですが、これを10ナノメートル以下にすると、今度は腎臓から出ていってしまいます。ですから、10ナノメートルよりも大きくて、50ナノメートルよりも小さいぐらいのサイズにうまく設計してあげると、こういった間質の多いがんでも、薬をきちんと送り届けることができるということが分かりました。
●抗がん剤を内包した高分子ミセルの臨床開発状況
私たちの開発した高分子ミセルですが、この図にあるように、異なった種類の抗がん剤を入れた4種類のミセルが日本、アジア、アメリカ、欧州で今、臨床試験に入っています。
臨床試験ですが、第1相ではまず少数の人で安全性をチェックします。第2相では有効性と安全性を調べ、第3相が最終試...