●分子を組み上げて作る「ナノマシン」の仕組み
―― 今回の講義は「ナノテクノロジーで医療を切り拓いていく」という趣旨ですが、ひと言でいうとどのような講義ですか。
片岡 この表題の副題(体内で薬を運び、作り、操るナノマシンによるがんの標的治療)にもあるように、ナノテクノロジーを使って非常に小さなナノマシンを設計して体内に薬を運ぶ、あるいは薬を作り、病気を診断して治療する、そうしてがんを標的治療したいという話をしたいと思います。
―― ありがとうございます。最初にイメージをつかみやすくするために教えていただきたいのですが、この場合の「ナノマシン」は具体的にどういうイメージですか。
片岡 マシンというと、歯車を組み合わせたり、あるいは素材を切って作ったりするイメージが強いですね。あとでお話をしますが、ナノマシンはすごく小さいので、そういう方法では作れません。分子を組み上げて作ります。例えば、分子をレゴのような形で組み上げて、その中に薬を入れ、現在だとそうしてがんに送り込んで治療をする仕組みとして使われます。
―― ありがとうございます。では早速講義をよろしくお願いいたします。
●「iCONM」は世界に開かれた場所にある
片岡 それでは講義を始めたいと思います。実はタイトルスライドのバックにある建物が、私がこの研究をしているナノ医療イノベーションセンター、通称「iCONM」と呼んでいる建物です。どこにあるかというと、川崎市殿町にあります。非常に新しい研究センターなので、まずは簡単に、このセンターが一体何をやっているのか、どういったところにあるのかをお話をさせていただきたいと思います。
ナノ医療イノベーションセンターは、今お話ししたように通称iCONMと呼ばれます。2015年4月にできました。施設内の写真が少し出ていますが、できるだけ違う分野の人が集まって研究できるよう、非常にオープンスペースになっています。また、「マグネットエリア」と呼んでいる、みんなが集まれる場所を作っています。それから、微細加工・有機合成・細胞実験・動物実験まで、一つの建物の中で一気通貫してやれる設備を持っています。
これが今どこにあるのか、説明します。これは川崎市を俯瞰した写真ですが、右手前が羽田空港です。その上が東京都心部、左手前が多摩川で、その上が川崎です。
ちょうど羽田空港の反対側の赤いところが「キングスカイフロント」と呼ばれている場所です。ここはもともと大きなトラック工場があったのですが、それが全部転出した跡に、川崎市と国が中心になって、ライフサイエンス・環境分野における世界最高水準の研究開発から新産業を創って、日本の成長と世界の持続的な発展に貢献をしようという国際戦略特区を作りました。
今ここがどういう状況か、説明します。ちょっとビジーなスライドで恐縮ですが、すでにこの資料は古くて、現在は70機関ほどが進出、あるいは進出を決定しています。どんな機関があるかが下に出ています。一番大きいのは「国立医薬品食品衛生研究所」という研究機関で、ちょうど真ん中左下にあります。これを囲んで、いろんな企業や私たちのような公的な研究機関、あるいは大学のサテライトキャンパスなどが集積をしてきています。
私たちのナノ医療イノベーションセンターはここにあります。反対側が羽田空港で、今のままだと毎日飛行機を見ることはできますが、多摩川の向こう側に半島にあるので、泳いでいかないと当然渡れません。しかし非常に良いことに、ここに橋が架かることが決まっていて、今まさに工事中です。
これがちょうど工事をしている途中の写真です。これは半年ぐらい前なので、今はもっと進んできていて、2021年度中には出来上がります。私たちの研究センターはこの黄色いところです。これができると羽田空港の国際線のターミナルから私たちの研究センターまでだいたい、車で5分、歩いても20分で到着できるので、非常に世界に開かれた場所にこの研究センターがあることがお分かりいただけると思います。
●文部科学省推進の「COINS」がめざすのはスマートライフケア社会
ここでやっているイノベーションとは一体何なのか、説明します。まず、皆さんの身近にあるイノベーションから考えたいと思います。カメラ、オーディオ、携帯電話、パソコンなど、こういうものが以前はばらばらにありました。