●高齢者の健康支援のために仕事をつくり出す
高齢社会に向かって医療と介護が大変だといわれています。それはそうなのですが、その前に健康ビジネスと自立ビジネスがあります。この2つでどのように医療や介護の負担を軽減できるかということ。一番いいのはジョブをつくることなのです。
徳島県の上勝町では「葉っぱビジネス」というものがあります。高齢者が葉っぱを京都の料亭に販売し、それなりの収入を得るというものです。もうすぐ日本の高齢者1人当たりの医療費の平均は120万円になる見通し(後期高齢者の場合)で、それまで上勝町も大体それぐらいだったのですが、約60万円に減りました。それは、高齢者が医者に行かなくなったからです。医者に行くよりもお金を稼ぐ方が面白い(忙しい)ということです。一方、退職して特に行くところや居るところがないと、医者に行く人が多くなるということです。
一番いいのはお金を稼ぐ方法をつくることです。金額が少なくても構いません。こうした少しのことで高齢者が生きがいを持てるようにすれば、例えば医療費が120万円から60万円というように一気に減ることもあるのです。
●脳科学の発達で高齢者の自立が可能になる
もう一つの問題は自立です。例えば、何歳になっても高齢者が一人でトイレに行けるようにすることです。いわば、人間の尊厳産業とでもいうべきものです。人間の脳の仕組みがかなり解明されてきています。人の頭が生きている限り、ニューロンという脳細胞から電気のパルスがピッピッピッピと出ることが明らかになっています。
人間の身体には、この電気のパルスが神経を通じて流れ、脳に戻ってくるという電気回路が非常に多くあります。それから電気のパルスが出ているということは、電磁波が出るということを意味します。ニューロンから電気のパルスが出ると、電磁波が出ますが、この電磁波を脳波といいます。ですから、全ての動作のスタートはニューロンで電気がピッピッピッピとパルスを出していることです。
そうであるならば電磁波を測ればいいわけです。人間と離れていても、その人の脳波を測ることによって、「あの人はあそこにあるものを取ろうとしている」と感じたら作動するロボットの実験が世界のさまざまなところで出てきています。
左の写真はHALという世界的なベンチャーのCYBERDYNE株式会社の山海嘉之氏がつくった製品です。これは(“生体電位信号”として)漏れ電流を測っています。電気の流れる回路である神経が比較的皮膚の表面に近いところにある場所にセンサーを張って、その電流を測ります。その測定値から、機械を取り付けた人が何かをしたいと考えるとそれを推測し、機械のモーターが回るという原理です。
今ではこれをリハビリに使ったり、腰への負担を軽減し物を持ち上げる動作を補助するようなロボットが出てきています。原理は皆同じで、脳から出る電気のパルスを検知するという仕組みです。
この技術は急速に進んでいくでしょう。脳科学がこの後も発達し、ブレイン・マシン・インターフェース(Brain-machine Interface : BMI)という検知の仕組みも急速にできてきています。さらにロボティクスという分野も発達しています。
これらが順調に進歩すれば、脳が生きている限り他人のお世話にならずにトイレに行くことができる時代が来るのはもう遠くないでしょう。ここに膨大なビジネスチャンスがあるのは目に見えているわけです。
●重要なのは高齢者の経験と若い力を結び付ける仕組みづくり
生きがいとは何か、ということを議論してきました。これは果てしない議論ではありますが、一つの結論は自由と多様性だと考えています。
まず自由度が上がりました。挙げたのは前川製作所の例ですが、この会社には定年がありません。定年がないといっても、50歳を過ぎた頃から「君、この後、どうする?」という話が始まって、ほとんどの人は60歳を前にラインを外れます。その代わり、いつまでいてもいいのです。私が「ぶらぶらしている年寄り」と呼んでいる、そういった人たちが大切なのです。
この方たちはその「ぶらぶらしている年寄り」ですが、そういう人と若い人とがコラボすることによって、前川製作所では新しい製品が次々と生まれているそうです。
一番最近のヒット商品は、鶏の骨の付いている肉から骨を引き剥がして、骨と肉を分ける機械です。腱を切ったりするのが大変で重労働らしいのです。そこで機械を開発しました。この機械を「トリダス」というのです。これが大ヒット商品になっています。
そういった製品の開発は現役だけでは無理なのだそうです。このことはとても示唆的な気がしています。一つには現役は忙し過...