●COIで大学と企業が協力する
最後になりますが、私は超大学が今後のイノベーションの動きの一つなのではないかなと思っています。うまくいきかけているCOI(センターオブイノベーション)の18の拠点があります。私は地方の大学を何とかしたいと思っています。潜在力はまだあります。一番うまくいった一つが先ほど申し上げた弘前大学です。
病院を挙げて2週間かけて市民の2,000項目の検診を行うのですから、東大でやろうといっても、なかなかできることではありません。これは、弘前市民の期待であるとか、弘前大学の県における位置付けといった、さまざまな要因で動いているのです。もう14年間もやっているのですから、世界一規模のデータを持っています。
それから広島大学もすごく、感性についての脳モデルの研究です。30社ほどの企業が参加しており、弘前大学には50社近くの企業が参加しています。そのうち15社ほどが寄付講座をつくるという話です。
COI(センターオブイノベーション)には18カ所の大学拠点があるのですが、今は平均して18の企業が参画するようになりました。ということで、さまざまなことを行っております。芸大(東京藝術大学)や山形大学、そしてようやく旧帝国大学も立ち上がってきました。
●学生がキープレイヤー~種子島に19校の大学が集結~
これで分かったのは、弘前大の例で申し上げたように、一つは学生が中核として活用できるということです。やはり日本はこれから学生を活用する。学生は大学で勉強して卒業したら会社で働く、というのが今までのモデルでしたけれども、それがもう成り立たないのは明らかです。今は人生100年時代ですし、会社から解雇されることがあることも分かっているので、若い人も会社に一生を捧げるとは思っていないのです。これはもう事実で、一つのキャリアだと思って会社に入っているということです。
ですからこうしたことを前提としてものを考えなくてはいけません。そう考えたとき、学生はもう十分力があるということです。やることが何かということを決めたときの学生はすごいのです。それが例えば明確に起こっているのが、この種子島です。種子島には大学はありません。しかし、ここに今19校の大学が集結しており、学生がキープレイヤーです。
●科学技術を実社会で生かしていく
例えば、天ぷら油からディーゼルオイルをつくるというのはご存じですよね。あちこちでやられていますが、東北大学の先生が膜を使った非常に良いプロセスを開発しました。先生はその実験をやりたいわけですが、どこもやらせてくれません。そこでその実験を種子島でやっているのです。他にも、台風が来ても比較的倒れにくいサトウキビの開発などがあります。
だから、今あるさまざまな小さな技術であっても、それを現場に入れていけばどれだけ社会が変わるでしょうか。それを今やっているのです。
19校の大学からさまざまな技術を持った人たちが種子島に入ってきます。そして、種子島の未来はどうするのかということを高等学校で教えているのです。例えば、これぐらいの台風で倒れないようなサトウキビがあると、社会はどう変わるのか、といったことを高等学校でグループワークとして議論させるのです。高等学校の学生でさえ、目的を明確にして取り組めば、相当な力を発揮します。それを大学生が教えるのです。そして、教えると本気になります。高校生の前で恥をかきたくないということがあるからです。そうなると、ツーリストが来ますし、そういう外国人と一緒に課題に取り組むといったことも生まれます。
現場で地方を活性化するということが最大の課題なのです。したがって、ここに大学の研究やベンチャーの種といったさまざまな種を持ち込んで、先生ももちろん同行しますが、学生が中核になって行う、ということが私は今後うまくいくと思っています。
●科学に情理や物語が入ってくると社会は動く
この図は菊池康紀さん(東京大学国際高等研究所 サステイナビリティ学連携研究機構 准教授)という方の、今まで申し上げてきたことの中核になっている方の理論です。科学は論理とデータの組み合わせだが、それだけでは社会は動かない。そこに情理や物語が入ってくると社会が動くのだ、ということを彼が唱えているのです。これは優れている考え方で、世界でも通用するのではないかと思っています。ですから、種子島でやったことを置賜でもやろうとしています。また、北岩手でもやろうとしています。
ということで、今は横展開を図っているところです。種子島だけでうまくいったといっても、それだけではいけないということで実例を10個くら...