10MTVオピニオン|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録
10MTVオピニオンは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

イノベーティブな人に共通する特徴とは?

イノベーションの本質を考える(8)質疑応答

楠木建
一橋大学大学院 経営管理研究科 国際企業戦略専攻 教授
情報・テキスト
イノベーションを起こす人の特徴にはどのようなものがあるか。また、アートとイノベーションについて、農業におけるイノベーションについてなど、講演後に上がったいくつかの質問に対して、仮説などを提示しながら応えていく。(2018年9月7日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「イノベーションの本質」より、全8話中第8話)
時間:08:14
収録日:2018/09/07
追加日:2018/11/30
≪全文≫

●イノベーティブな個人に共通する特徴とは?


質問 イノベーションを起こせるような発想力を持つ人は、どんな特徴を持っているのでしょうか。

楠木 もしかすると、そうしたイノベーションを起こすような、個人的なトレイト(特徴)に関する研究があるのかもしれません。僕は知らないのですが、見たり聞いたりしていくうちに、共通の特徴があるとはいえます。まず、イノベーションの定義からして、業界アウトサイダーであることが大きいと思います。もちろんケースバイケースではありますが、その業界のことをよく知っており、どっぷり浸かっていると、その業界で何が良いとされているのか、という既存の価値次元から逃れるのは難しいのです。そのため、往々にしてアウトサイダーからイノベーションが生まれることがあります。

 後は、リソースがない人たちです。リソースがあると、今ある進歩競争に取り組みたくなってしまいます。そのため、むしろリソースに限られている人や、リソースが限られた場所から、イノベーションが出てくるという面があるのだと思います。ケースバイケースではあるのですが。

 さらに、先ほど話した通り、組織ではなく個人として内的な動因を持っているということも重要です。自分がとても欲しいものに対しては、やはり強くドライブがかかります。例えば、電話を発明したグラハム・ベルは、母親が聴力障害を抱えていたそうです。良く聴こえるバーバルコミュニケーションという路線で進めていた結果としての発明が、電話だったらしいのです。

 ということで、個人的に「ぜひそうしたものがほしい」というドライブというものがあるのではと思います。


●企業経営に対してアートが持つイノベーティブな意義とは?


質問 お金を稼ぐところから離れて考えるとすれば、アートは重要だと思いますが、アートから経営に示唆を得るとしたら、どのようなものが考えられますか。

楠木 具体的には分かりませんが、今日の話とすごく近い話でいえば、アートの本質とは内発性であるということです。つまり、お金が手に入りそうだというインセンティブがないところから出てくるものをアートと呼ぶのです。誰も頼んでいないのに出てきてしまうのがアートなので、そのアート的な方向は、技術進歩よりもイノベーションに近いと思います。

 だから企業経営でいうと、企業経営自体のイノベーションということになるでしょう。今まである企業経営の価値次元が時価総額や売り上げ、利益率であったとすれば、そうしたものから、イノベーションにより「何が良いか」が変わるということだからです。


●イノベーティブな個人の日常的なルーティンとは?


質問 スティーブ・ジョブス氏のようなイノベーティブな人が日常的に行っているルーティンについて教えて下さい。

楠木 イノベーションを起こす人のルーティンというのは、本当に面白いですよね。一人一人全然違うと思います。多分これに近い話だと思うのですが、ジェイムズ・ワットという、イギリス人でブリュードッグというクラフトビール会社の起業家をしている人物がいます。その人は、おそらく僕と似たような問題意識から、今の企業経営は何かつまらないと言っています。彼は自分の好きなことを世に問うて、それでビジネスにしていくという『Business for Punks』という本を書いています。

 僕はこれを訳したのですが、例えば彼はパーティーには絶対出ません。パーティーなど、要するに皆、威張り合っているだけで気分が悪い、というのです。また、メールは便利だが、奇数の日しかパソコンには触らない、というポリシーも持っています。2日に1回しかパソコンに触らないのです。だから、1日は全く電子的なコミュニケーションツールに触れない日をつくるということです。おそらく、何か特定のことを行うというよりも、こういった「何かをやらない」ということが大切なのでしょう。それは、多くの人が自然とやってしまうことをやらないということなのかもしれないですね。


●農業の世界におけるアーティストの意義とは?


質問 農業の世界には、たくさんのアーティストが進出していますが、彼らのクリエイティビティをビジネスとして生かすためにはどんな取り組みをすべきですか。

楠木 よく分からないですが、今の話について僕が面白いと思うのは、何が良いかについての価値基準が定着していた農業の世界に、アーティストが入ってくることで、全然違った価値基準を見せてくれるということだと思います。これはおそらく、イノベーションの種まきにはなっていると思うのです。

 もしかすると、一見してアートに近いことは、あまり意味がないかもしれません。もともとアートの視点はそれほど変わらないからです。だから、アートに比較的近いような、例えば芸大を出たよう...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。