●イノベーションとは「何が良いか」そのものが変わること
ところが最近、イノベーションブームになっており、こうしたイノベーションの一番根本にある本質が置き去りにされているように思います。そこで、この「パフォーマンスの次元が変わる」ということがなぜ非連続性を意味するのかを、図式的に説明したいと思います。
例えば、新しいスマートフォンに買い換えるという行動を人間が取る際、当然前よりも良いスマホにしたいと思うでしょう。
それでは、その「良いスマホ」とはどのようなものでしょうか。人によって違うでしょうが、よくつながる、画面が大きくてきれいである、指紋認証が正確である、写真もきれいに撮れる、薄い、軽い、バッテリーが長持ちする、といった基準があるでしょう。物やサービスとは、こうしたさまざまな価値次元の束として考えることができます。
そうして考えた場合、今度のスマートフォンが、より薄くて軽く、画面も大きくてきれいで、バッテリーも速くチャージできるようになったとすると、こうした現象は、進歩と呼ばれます。つまり進歩とは、価値の次元において連続している現象なのです。
それに対して、イノベーションとは「何が良いか」ということそのものが変わるということです。つまり、ドラッカーのいう「パフォーマンスの次元が変わる」とは、「何が良いか」という基準が非連続になるということなのです。そのため、イノベーションは進歩とは区別されます。
●「すごい進歩」はイノベーションではない
ですから時々、物やサービスがものすごく進歩した際、それをイノベーションであると勘違いする人がいますが、これは間違いなのです。
例えば、先ほどのスマートフォンの例で言えば、1回5分充電すれば、向こう1年間全く充電する必要がないスマートフォンが出てきたとします。こうした現象は、イノベーションではありません。これは、価値の次元では連続している、専門用語でいう「すごい進歩」です。皆が「もっとバッテリーが長持ちするスマホが欲しいな」と思っているところに出てきたからです。
イノベーションは、図でいえば下の矢印に当たる、別の価値次元を作ることで生じます。その際には、技術的に進歩している必要はありません。「何が良いか」...