テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

両利きの経営で「イノベーションのジレンマ」の打開へ

日本のイノベーションのために(1)両利きの経営

情報・テキスト
イノベーションを生み出すには、確実性は低いけれども新しい変化を生み出すようなアイデアが必要である。しかし、大企業はそれが本流のビジネスを脅かすと考え、簡単に実行することができない。日本の多くの企業が抱えている、こうした「イノベーションのジレンマ」を打開するために注目すべきは、「両利きの経営」という考え方である。(全5話中第1話)
※インタビュアー:神藏孝之(10MTVオピニオン論説主幹)
時間:08:28
収録日:2019/07/19
追加日:2019/09/19
≪全文≫

●クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』とは


―― では先生、イノベーションの話をお願いします。

小宮山 イノベーションの古典の一つに、クレイトン・クリステンセンというハーバードビジネススクールの経営学者ですけど、彼の『イノベーションのジレンマ』という本があります。これは何がジレンマかと言うと、大企業のジレンマなんですよね。全ての企業がスタートアップから始まるわけですけど、それがだんだん大きくなって成功して、大企業になっていく。これが活性を保つためには、変化し続ける必要がある。それをイノベーションというわけだけれども、それができなくなる、というんですよ。

 なぜかというと、新しいものは、まず今、現に動いているビジネスと比べると小さく見える。それから、ベンチャーですから確実性がない。もう一つ、これが大きいけれども、もしかすると今の本流のビジネスをおびやかすかもしれない。だいたいが大きくいうとこの三つなんですが(後述)、このことから、「結局、本流につぶされる運命にある」、と。ざっと言ってしまうと、クリステンセンのいう、イノベーションのジレンマはそういうことです。だから、大企業は結局つぶれる以外にない、ということになってしまう。


●両利きの経営においてトップに必要なこと


小宮山 でも、必ずしもそうではないということで、『両利きの経営』(チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン共著)という本が出たんですよ。両利きというのは、右利きでもない、左利きでもない、両方だと。結論からいえば単純で、「本流のビジネスは徹底的にやれ。他に負けないように勝ち続けろ」と。そうじゃないと潰れてしまいますから。 だけど、「同時に新しい種を育てろ」と。それで、「これを動かすためには、トップのコミットメントが不可欠だ」と言っている。当たり前なんですけど。なぜトップのコミットメントが必要かというと、それをつぶされてしまわないように。

―― 守ってあげないといけないのですね。

小宮山 そうです。それで、一つは出しちゃう、スピンアウトさせちゃうことなんですよ。ところが、それでは普通のスタートアップと同じになるわけで、それではないだろうというのが両利きの経営です。つまり、中でやっていて、「本流の持っているリソースで助太刀しろ」、というわけです。これが大企業の利点だというわけですよ。

 そのためには、トップの確固たるビジョンと、それを説得してやっていく、いわばコミットメントが不可欠で、言ってしまえば、これが両利きの経営なんですよ。それはそれで正しいと思います。ものすごくたくさん事例が出ているけど、その事例はほとんどがアメリカの企業とグローバル企業です。日本企業は唯一、富士フイルムだけです。

 要するに、つぶれてしまったコダック社と比べて、富士フイルムがいかにうまくやったか、という話だけ出ているわけですよ。だけど、よく考えてみると、日本の企業でイノベートしているところはたくさんあります。例えば、典型的には総合商社。これは、もともとは名前の由来からして、貿易の口銭でお金を稼ぐという、いわゆる手数料ですが、それが本来のビジネスで、今そんなことはやっていない。あるいは、やってはいるけど、もうビジネスでは非常にマイナーなので、彼らは投資で稼いでいます。

―― 投資銀行ですよね。

小宮山 そうです。そういう形で、多くの商社が見事に高収益企業なんですよ。だから、大企業がイノベーションに成功しているわけですよ。

 それから、僕が知っている化学会社も、本当にそうですよ。 住友化学だって、三菱ケミカルだって、その他、ダイセルやカネカといったような規模のところも、多くの企業がここ数十年間の闘いを勝って生き残っていますよ。部材メーカーなどもそうですよね。だから、日本のことをよく検討しないといけない。


●“日本株式会社”がイノベーションのジレンマ


小宮山 イノベーションというのは、技術開発という話と、そのビジネス化という話と、社会を変革していく話と、この三つの段階があるんだけど、だけど、見てみると、例えば総合商社は海外でやっている。

―― そうか、国内じゃないんですね。

小宮山 そう、国内じゃない。化学産業もそうです。住友化学も海外につくったわけですよ。サウジアラビアです。三菱ケミカルだってそうですよ。もちろん内部で高付加価値みたいな事業はやっているので、これは国内ということではあるかもしれないけど、そういうふうに見ていくと、日本でイノベーションに成功しているところはあるけれども、ほとんどは、苦しんでいるわけですよ。

 どういう状況かというと、僕は日本全体も問題だと思います。昔、「日本株式会社」という言葉...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。