●技術革新は経済をどのように変えていくのか
東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授の柳川範之です。今回のシリーズは、「今後の技術革新と企業経営」というテーマです。私がいろいろと考えてきた中で、経済全体がこれからどのように変わっていくのかについて、お話しします。皆さんの経営や投資の参考にしていただきたいと思い、あえて大胆なタイトルを付けさせていただきました。
私の経歴を先にお話しますと、だいぶ変わった経歴をしています。私は、大学院卒業に至るまで10年近く、中学校卒業が最終学歴でした。日本の中学校を卒業した後に、父親の仕事の関係でブラジルに行きました。ブラジルでは現地の学校にも行かず、日本の参考書と問題集を使って独学で勉強していました。「独学で勉強していた」というと聞こえがいいのですが、実際には、リオデジャネイロのビーチで寝転んでいることの方が多かったのです。
ブラジルで4年半過ごした後、日本に帰ってきて大学入学資格検定(大検)を受け、高校卒業の資格を取りました。次に、今度はシンガポールに移住して、そこで慶應義塾大学の通信教育を受けました。そしてその後、東京大学の大学院に入学しました。
このようにかなり変わった経歴なので、経済の見方も普通ではないかもしれませんが、今起きている大きなことを中心に話をさせていただきます。
●オーナー経営が技術革新の時代を支える
現在いろいろな技術革新が起きているのですが、今回は大きく分けて4つほどお話しします。一つ目は、AIの話です。これは、少しブームが去りつつありますが、ブームになっていると思います。二つ目は、ビッグデータに関する話です。三つ目は、技術革新を踏まえた経営や働き方改革の話です。四つ目は、いわゆるフィンテックや仮想通貨、ブロックチェーンといった技術革新の話になります。
これらを一個一個しっかりとお話しすると、それぞれが2時間、3時間は話せる話題ですので、今回はこれらについてざっくりとしたお話をします。これらの話題に関して、何が大事だと私が考えているかを、お話させていただきます。
一番お伝えしたいことを最初に言います。現在いろいろな技術革新が起きていますが、この技術革新において重要なポイントは、実は技術そのものではなく、技術革新に対応した経営だということです。そして実は、一番のポイントはオーナー経営にある、と私は思っています。
しかし、オーナー経営以外は全部駄目だという話ではありません。大企業においても、いわゆるオーナー企業に近いような経営をしていく必要があるということです。それが、今回のシリーズのポイントになります。
●日本経済を巡る現在の構造変化は、スピードが非常に速い
近年の日本経済に関するポイントは、変化のスピードが速いという点にあります。技術革新としていろいろと挙げられますが、それを含めて、日本経済をめぐる大きな構造変化は3つほどあります。
一つ目は、人口減少と高寿命化です。二つ目は、世界全体のグローバルなパワーバランスの変化です。三つ目は、今シリーズのお話のメインポイントである、技術革新の急速な進展です。
これらの構造変化において、一番のポイントは、その変化のスピードが非常に速いので、それに素早く対応する必要がある、ということです。
●意思決定のスピードとリスクマネーの投入が求められている
日本企業の目の付け所は、結構いいと私は思っています。AIやロボットの開発などを、世界に先駆けていろいろと行ってきました。しかし残念なことに、日本企業は意思決定のスピードが遅いのです。
AIの開発に関して、日本で一番有名な方の中に松尾豊氏(東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻特任准教授)がいます。これはその松尾氏と話していることになるのですが、日本はロボット開発もAI開発も先行していたのに、今では世界に遅れを取っており、その原因はやはり意思決定のスピードの遅さにあるということです。
日本の大企業は、コンセンサスを取りながら意思決定をしていきます。そうすると、何かの投資について決定するまでに、2年、3年とたってしまいます。その2~3年の間に、例えばGoogleがあっという間に開発を進めて、製品もできてしまうということがあります。つまり、日本企業が投資の決定について進めている間に、海外の企業はもう製品まで完成させてしまうのです。
このように、意思決定の差がその後のスピードも圧倒的に変えてしまいます。そうなると、スピードを持ってリスクを背負った意思決定ができることが、決定的に重要になります。ですから、オーナー経営のような進め方、あるいはリスクを背負った経営者の意思決定が大事になるのです。
つまり、スピードを持った意思決定とスピード感...