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技術革新の時代を支える経営のあり方とは?

今後の技術革新と企業経営(1)素早い意思決定が重要

柳川範之
東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授
情報・テキスト
現在の技術革新に関する重要なポイントは、それに対して企業がリスクを背負った素早い意思決定を行うことである。東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授の柳川範之氏は、そう主張する。日本企業は従来、技術革新に目を付けても、意思決定の遅さのために、結局は遅れを取ってきた。これからは、素早い意思決定を可能にするオーナー的経営が重要となる。(2018年4月25日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「今後の技術革新と企業経営」より、全8話中第1話)
≪全文≫

●技術革新は経済をどのように変えていくのか


 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授の柳川範之です。今回のシリーズは、「今後の技術革新と企業経営」というテーマです。私がいろいろと考えてきた中で、経済全体がこれからどのように変わっていくのかについて、お話しします。皆さんの経営や投資の参考にしていただきたいと思い、あえて大胆なタイトルを付けさせていただきました。

 私の経歴を先にお話しますと、だいぶ変わった経歴をしています。私は、大学院卒業に至るまで10年近く、中学校卒業が最終学歴でした。日本の中学校を卒業した後に、父親の仕事の関係でブラジルに行きました。ブラジルでは現地の学校にも行かず、日本の参考書と問題集を使って独学で勉強していました。「独学で勉強していた」というと聞こえがいいのですが、実際には、リオデジャネイロのビーチで寝転んでいることの方が多かったのです。

 ブラジルで4年半過ごした後、日本に帰ってきて大学入学資格検定(大検)を受け、高校卒業の資格を取りました。次に、今度はシンガポールに移住して、そこで慶應義塾大学の通信教育を受けました。そしてその後、東京大学の大学院に入学しました。

 このようにかなり変わった経歴なので、経済の見方も普通ではないかもしれませんが、今起きている大きなことを中心に話をさせていただきます。


●オーナー経営が技術革新の時代を支える


 現在いろいろな技術革新が起きているのですが、今回は大きく分けて4つほどお話しします。一つ目は、AIの話です。これは、少しブームが去りつつありますが、ブームになっていると思います。二つ目は、ビッグデータに関する話です。三つ目は、技術革新を踏まえた経営や働き方改革の話です。四つ目は、いわゆるフィンテック仮想通貨ブロックチェーンといった技術革新の話になります。

 これらを一個一個しっかりとお話しすると、それぞれが2時間、3時間は話せる話題ですので、今回はこれらについてざっくりとしたお話をします。これらの話題に関して、何が大事だと私が考えているかを、お話させていただきます。

 一番お伝えしたいことを最初に言います。現在いろいろな技術革新が起きていますが、この技術革新において重要なポイントは、実は技術そのものではなく、技術革新に対応した経営だということです。そして実は、一番のポイントはオーナー経営にある、と私は思っています。

 しかし、オーナー経営以外は全部駄目だという話ではありません。大企業においても、いわゆるオーナー企業に近いような経営をしていく必要があるということです。それが、今回のシリーズのポイントになります。


●日本経済を巡る現在の構造変化は、スピードが非常に速い


 近年の日本経済に関するポイントは、変化のスピードが速いという点にあります。技術革新としていろいろと挙げられますが、それを含めて、日本経済をめぐる大きな構造変化は3つほどあります。

 一つ目は、人口減少と高寿命化です。二つ目は、世界全体のグローバルなパワーバランスの変化です。三つ目は、今シリーズのお話のメインポイントである、技術革新の急速な進展です。

 これらの構造変化において、一番のポイントは、その変化のスピードが非常に速いので、それに素早く対応する必要がある、ということです。


●意思決定のスピードとリスクマネーの投入が求められている


 日本企業の目の付け所は、結構いいと私は思っています。AIやロボットの開発などを、世界に先駆けていろいろと行ってきました。しかし残念なことに、日本企業は意思決定のスピードが遅いのです。

 AIの開発に関して、日本で一番有名な方の中に松尾豊氏(東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻特任准教授)がいます。これはその松尾氏と話していることになるのですが、日本はロボット開発もAI開発も先行していたのに、今では世界に遅れを取っており、その原因はやはり意思決定のスピードの遅さにあるということです。

 日本の大企業は、コンセンサスを取りながら意思決定をしていきます。そうすると、何かの投資について決定するまでに、2年、3年とたってしまいます。その2~3年の間に、例えばGoogleがあっという間に開発を進めて、製品もできてしまうということがあります。つまり、日本企業が投資の決定について進めている間に、海外の企業はもう製品まで完成させてしまうのです。

 このように、意思決定の差がその後のスピードも圧倒的に変えてしまいます。そうなると、スピードを持ってリスクを背負った意思決定ができることが、決定的に重要になります。ですから、オーナー経営のような進め方、あるいはリスクを背負った経営者の意思決定が大事になるのです。

 つまり、スピードを持った意思決定とスピード感...
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