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イノベーションのためには社会全体として育てる意識が必要

「研究開発型ベンチャー」成功の条件(3)育てる意識の重要性

片岡一則
ナノ医療イノベーションセンター センター長/東京大学名誉教授
情報・テキスト
欧米のようにベンチャー企業やスタートアップが活躍するにはどうすれば良いのか。それには、企業や個人単位の利益を考えるのではなく、社会全体の成長を見据えた意識を持つことが必要である。アメリカ社会の特徴から起業を取り巻く社会のあるべき姿を考える。(全3話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:05:27
収録日:2021/05/12
追加日:2021/08/28
≪全文≫

●起業を活性化するための社会意識


―― ベンチャーに関する最後の質問でお聞きしたいのが、ベンチャーが活発な社会にしていくために、特に日本における国や政策でこういうものは障害になる、あるいはこういうものがあったら良いということはありますか。

片岡 やはり世の中にイノベーションを起こすには、ある目的に対して集中して、それを世の中のあるところまで持ってくる事業体や企業、ビジネスの重要性をみんなが意識しないとダメだと思います。つまり、育てる意識がないと難しいでしょう。

 規模の大きな企業が、自分のところでやるのは大変だから、つまり自分のやっていることのアウトソーシングでベンチャーがあるという考えでやっていると、世の中は変わりません。

 私も若い時からアメリカの企業と共同研究などをやっていたので、育てる意識は結構ありました。

―― そうなのですね。意外とアメリカにはそのあたりの意識は乏しいのかなと思っていました。アメリカの企業のほうが育てる意識があるのですか。

片岡 大企業としてやることと、ベンチャー企業がやることをきちんと分けて考えています。間違っても、ベンチャー企業で成長してうまくいきそうなところにあとから資金力で参入して、つぶしてしまうというのは絶対やらないですね。それはやってはいけません。

―― そこは一種、騎士道というと変ですが、やはり事業の姿勢としてそういうものを持っているかどうかが大事だということですね。


●社会全体の成長のために必要なモラルとは


片岡 つまり、社会が成長していくためにはそういうものが必要であり、そういうものを育てていく意識を経営者として持つべきではないでしょうか。日本の場合、そこまで誰もがきちんと考えているのかというと、私は少し疑問を感じます。

―― なるほど。スタートアップ企業が非常に増えている中だからこそ、社会全体としても、そういう企業をどのように見ていけば良いのか、どう育てていけば良いかを総合的に考えていかないといけません。そうしないと、やっている人たちがつらい局面になっていきかねません。

片岡 そうですね。自分たちでやるより、単なるアウトソーシングのほうが人を雇わなくていいから便利です。自分たちでやろうすると、人を雇わなければなりません。だけど他でやっているのであれば、それを買ってきてしまえば良い。ただ、買ってきてやるならまだ良いですが、あとから同じことをやって参入し始めると、仕組みは育ちません。

―― そのあたりの発想の転換、社会の転換が必要だということですね。

片岡 そうですね。だからイノベーションを起こすには社会を変革しようとする意志を持ってやることが必要です。それが成長していくことは、社会全体がイノベーティブになることです。それを社会全体として育てあげていくモラルが必要ではないでしょうか。

 これは、例えば第二次世界大戦後の復興などと分けてしまいがちです。つまり、すごく大きな災害などがあって、本当に社会全体が落っこちてしまったときにやることとして考えてしまうということです。今はそういう状況ではないですが、イノベーティブな形でそういうものをやっていこうとするのであれば、社会全体がそういう意識を持たない限り、それは成り立たないと思います。
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