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日本の再生のために重要なのは人と教育

日本のイノベーションのために(5)人材育成とリーダー

情報・テキスト
イノベーションを考える上で、政府の補助金がどのような形式であるべきかを考えることも重要である。現在の仕組みではうまく機能していないため、見込みある事業に効率良く出資していく判断力が求められている。しかし問題は、こうした日本の状況を正確に理解できる人をいかに育成するかだ。ある意味、鎖国状態ともいえる現在の日本に必要なのは、力のあるリーダーである。(全5話中第5話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:14:30
収録日:2019/07/19
追加日:2019/09/26
キーワード:
≪全文≫

●出資型のお金の使い方のススメ


小宮山 この間、財務省のお役人の方たちに、意見を言う機会がありました。そこで申し上げたのは、麻薬のような補助金をやめるべきだということと、その代わりに出資型のお金を使えということでした。

 このことは林業を進めているとよく分かります。岡山県真庭市に、「銘建工業」という林業で成功した会社があります。やはりここには、最初に林野庁からお金が出ており、それがビジネスとして成長しています。これは出資型の良いお金の使い方です。

 今、林業というのは日本全体で3,000億円くらいの売り上げだと思うが、2,000億円くらいの補助金を出している。これは麻薬。本当は、資本主義というのは、効率の悪いところはつぶれて、効率の良いところがとって代わる、というのが一番のメリットなんですよ。ところが補助金が出ているから、そのサイクルが働かない。

―― 生産性が上がらなくなりますね。

小宮山 それで、なんとか生きていられるから、「自分の代につぶしたら、ご先祖様に申し訳ない」と言って、実質的に続いていないのに、麻薬(補助金)で続いているのです。国のやるべきことは、麻薬的補助金を止めることです。

―― 日本の中小企業政策も、同じだと思います。つぶさないといけないところに、つぶさないようにずっと800万円とか1,000万円とか、ただのお金をどんどん補填している。

小宮山 でもこれは役人も分かっている。私が今のように言うと「小宮山先生のように、麻薬的補助金とは言えませんが、何がそうした補助金で、何が正しい使い方なのか、自分たちだけではよく分からない」と正直に言っていました。そこを進めていけるかが、日本が全体として機能するために重要なことですよね。

―― 彼らも相当悩んでいるのでしょう。

小宮山 それはそうでしょう。彼らだけではできないからです。政治家が後ろにいるわけだし、政治家の後ろには、投票する人たちがいるわけです。要するに、それが日本全体の仕組みですからね。

―― そういう意味でいうと、まさにイノベーションのジレンマそのものですね。

小宮山 そのものですね。

―― 補助金を切れば、その分、票が逃げるわけですからね。しかしそう思って補助金を続けると、先生のように「麻薬的補助金をやめろ」と言われてします。そうして、何もできなくなってしまいます。


●「社会は変えられる」と言う役人を全力で支援したい


小宮山 この間、私はある雑誌に書評を書きました。書評対象となった本は、経済産業省の江崎禎英さん(商務・サービス政策統括調整官)という人が書いた『社会は変えられる』(国書刊行会)です。

 彼が医療の関係で、内閣府と厚生労働省の大事なポジションをやっている。彼が、『社会は変えられる』という本を出しているのです。僕はそれを書評として取り上げて、「そういう人を支援しなければならない」、と書いた。書評の中に一緒に取り上げた対照的なことを書いている本がある。それは、日本通のアメリカのエドワード・リンカーンという学者の『それでも日本は変われない』(日本評論社)という本です。これは小泉内閣の頃に、構造改革と小泉純一郎さんが言っていたが、それを見て、「それでも日本は変われない」、と。そこに書いてあるのは、まさにイノベーションのジレンマ。

―― “日本株式会社”全体のイノベーションのジレンマ。

小宮山 だから、「社会は変えられる」と言う役人を僕は本当に全力で支援したいと思っていますけど、これは多勢に無勢というか、一騎当千ぐらいで済むようにならないとね。今は衆寡敵せずって感じです。

―― なるほど、衆寡敵せず。

小宮山 でもだいぶ、分かっている人たちが出てきて、本当にみんなが思い始めると、ガラリと変わることが日本には期待できると思う。


●江戸時代には人材が育っていた


―― 幕末も黒船が来て、ちょっと金銀の交換比率を間違えて、インフレになって米騒動になり、日本が壊れていきますよね。あともう一ついえるのは、当時勝海舟とか小栗上野介とか、優秀な人を登用できる仕組みになりましたよね。

小宮山 西郷隆盛とかもそうですね。

―― 各藩もそうだし。それにだんだんと近づいていますよね。

小宮山 本当に、島津久光とか山内容堂とか、よく手放しましたよね。

―― 薩摩でいくと、小松帯刀がいて久光も押さえつけ、慶喜にも牽制球を出し、大久保利通は西郷を暴走しないようにしたりと、やっぱりポイントのところで人材が出てきますよね。そういう人はだいたい早く死んじゃうことが多いので、名前はあんまり残っていないですけど。

小宮山 1人じゃできない。英雄は1人になるけど。どうして、江戸時代に人材が育っていたんでしょうね。

―― 私塾でしょうね。

小宮山 松下村塾が有名ですけど、大...
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