イノベーションの本質を考える
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「すごい進歩」はイノベーションではない…その意味の違い
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イノベーションの定義はパフォーマンスの次元が変わること
イノベーションの本質を考える(1)イノベーションの定義
楠木建(一橋大学大学院 経営管理研究科 国際企業戦略専攻 特任教授)
イノベーションの本質を考える上でのポイントは、イノベーションが何かということよりもむしろ、それが「何ではない」ということだと、一橋大学大学院経営管理研究科国際企業戦略専攻教授の楠木建氏は言う。昨今の経済界において欠けているのは、その点を熟知し、単なる技術的進歩と区別することである。(2018年9月7日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「イノベーションの本質」より、全8話中第1話)
時間:7分57秒
収録日:2018年9月7日
追加日:2018年11月29日
≪全文≫

●イノベーションに対する勘違いが起きている


 楠木と申します。今日は、「イノベーションとは何か」ということではなく、「イノベーションとは何ではないか」ということをお話ししたいと思います。僕は競争戦略という分野で仕事をしているのですが、その視点からイノベーションというものを考えています。現在、「イノベーションなどやめておけ」という人はいません。

 皆、朝から晩まで「イノベーションが大切だ」という話をしています。しかし改めて、そこにおいてイノベーションという言葉がどのような意味で使われているかを考えると、「この辺で何か一発新しいことをやろうじゃないか」という程度の意味しかありません。それでは、本来のイノベーションの意味から随分と逸脱し、矮小化されているように思います。

 もちろん、イノベーションが必要であることには変わりありません。それは全くその通りなのですが、僕の見るところ、そうしたことを言ったりやったりしている企業ほど、かえってイノベーションから遠ざかり、コモディティー化の波に飲み込まれていくという、皮肉な成り行きがあるように思います。

 とにかく問題の根源は、ごくごく最初の部分に関する勘違いにありますので、まずはその勘違いについて考えた方が良いでしょう。それにより、イノベーションの本質が分かるのです。


●スーパーコンピューターはイノベーションか?


 今から、分かりやすい商品や技術の例をいくつか引き合いに出しますので、今の皆さんの定義や基準から、これらがイノベーションかそうでないかを判定して頂きたいと思います。イノベーションであると思ったら親指を上に、イノベーションではないと思ったら下に下げてみてください。時々どちらでもないという方がいらっしゃいますが、それはなしにして頂いて、皆さんの定義から必ず2択でご判定ください。

 まず、非常に演算速度が速いスーパーコンピューターという領域がありますが、日本からは、理化学研究所が「京」というマシンを出しました。これはイノベーションといえるでしょうか。いえないでしょうか。

 京よりさらに速いマシンがあります。これは「天河2号」といって中国(正確には人民解放軍)の所有物で、軍部...

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