●半導体が解決する課題先進国・日本の問題
私は、これからの日本ということで言いたいのは、「課題先進国を支えるユーザー主導の半導体」という時代が来ているのではないかと思います。今までは大量生産で汎用の半導体の時代でした。なぜかというと、工業化というのは地球には資源が無限にあって、人口はどんどん増えていってイケイケドンドンで、最先端を制した者が世界を制するというので、大量生産を企画してやっていたわけです。
ですからその当時は、大型コンピュータ、情報家電、大容量のDRAMという時代で、そのようなときに日本は大量生産で勝ったわけですが、これからはそうではなく、少量でも品質が良くて、ユーザーのニーズにきちっと合うものを作れる時代が来ており、技術がそこまで行っています。
そうなると、今申し上げたように、ユーザーのニーズに合うのではなく、ユーザーが自分で発想して自分で設計して、それを専門家が助けるという、そういう手作りの時代が来ます。手作りでも品質が高く、資源も浪費しないという、そのような時代が来るのではないかと思います。
これはまさに、課題先進国が直面する問題に答えていく、新しい時代が来ているのだと思うわけです。課題先進国というのは、小宮山宏東大(元)総長が言い出した言葉です。私流にいえば、今日本が直面している人口減少、高齢化、社会保障の持続、労働不足、交通システム、気候変動、食料安全保障など、これらは全て大課題です。このようなことに、実はこれまで申し上げてきた、ユーザー目線から技術革新をして、そこでそれにぴったり合った超高性能の半導体を作るということになってくるのだと思います。
例えば、人口減少の問題でいえば、人口減少をどうするかについて、(総理大臣の)岸田(文雄)さんは子どもを産みやすくするために補助金をつけると言っていますが、そういう時代ではないのではないかと思います。人口が減っても、1人ひとりがもっと豊かになることは十分可能なのです。これは、衣食住の生活水準の内容を豊かにすればいいだけの話です。
それについて、個々のユーザーにこれが欲しいというドンピシャな製品を作るというのは、ユーザーの目線から設計されるものを作るということですから、半導体もそのほうがいいのです。そういう時代では、ソシオネクストみたいなところで作れますから、それをやればいいのです。
それから労働力不足の解消ということでは、例えば今トラックの運転手さんが足りなくて大変だといいますが、日本は高速道路がよくできているので、トラックが高速道路では10台ぐらい連結すればよく、別にそんなに高度な技術が必要ではないのです。それで輸送すれば、おそらく1晩で数千人の運転手さんはいらないでしょう。
そのように考えれば、重労働とか建設業とか産業廃棄物とか、これらは全て大量に労働集約ができるのです。それに使うものは、ドローンやロボットや監視カメラなどですから、それこそまさに半導体でできるものです。なので、徹底的にそういうシステムを利用して、AIロボットなどで支えればいいのです。
高齢化をどのように克服するかですが、最大の問題は健康です。死ぬまで健康であればいいので、長寿を無理にさせることではありません。死ぬまで健康であるためには、健康増進のためのリアルタイムの体調監視、診断、治療などはできます。遠隔操作もできますから、これこそ技術が本当に必要なのです。
それから気候変動については、気候変動対策の大戦略は脱酸素ということですが、もっと目の前の気候変動があるわけです。線状降水帯がいつ来るのか正確に分かれば、人々は避難できますから、これこそかなり高度な半導体(技術)ということです。
また、自然エネルギーを情報化することについてですが、自然エネルギーというのは原発や石油と違って、天候や日照時間などいろいろなものに左右されますから不安定なのです。そして、需給バランスに大きなギャップが出てしまいます。ですから、九州などはできた自然エネルギーを捨てています。
その需給バランスをきっちりやるには、スマートグリッドを徹底的に使えばいいのです。それもやはり、かなり高度でネットワークを持った半導体の世界なのです。そういうところに着目すべきではないかということです。
それから情報化農業です。これについてはイスラエルがものすごく進んでいますけれども、食物が育つ、食用作物が育つには、種から改良、植える、育成、収穫に至るリズムがあり、このリズムを活用することです。
例えばイスラエルでは、雨が全然降らないにもかかわらず、ちゃんと森林が生えているのです。なぜかというと、これは点滴灌漑(かんがい)なのです。雨として降ってきた水は植物が本当に必要な量の1000倍ぐらいになる...