●米中対立で浮き彫りになったサプライチェーンの空洞化
さて、今までのストーリーは、最初に申し上げたファブレスとファウンドリーの分業と協業の話です。世界はそのようになっています。もう1つの話は米中対立です。
中国は21世紀に入ってから、半導体の市場がものすごい勢いで拡大したのです。2012年に習近平さんが主席になったわけですが、それまでの経済の成長というのは鄧小平さんが主導したものです。それが、習近平さんが主席になり世界最大の半導体市場になったのですけれども、半導体の自給率が非常に低いというのが構造的な欠点でした。
なぜかというと、中国は後発国だからです。鄧小平さんが頑張り始めた時は、世界におけるGDPの比率は3パーセントもなかったのです。その後10年のうちに3倍になり、一応形だけは大国になったわけです。しかし、中身がありません。それで半導体(の自給率)が非常に低い。習近平さんはそれに気がついて、2014年に「国家IC産業発展推進ガイドライン」というものを作り、そのあとに中国IC(投資)ファンド(基金のこと。National IC Industry Investment Fund、通称:National Big Fund)を作ったのです。それを使って半導体産業を発展させようとします。
そして2015年に「中国製造2025」を作り、アメリカにものすごく叩かれましたが、これをやりました。これは何かというと、2020年に半導体の自給率を40パーセント、25年に70パーセント、その後に100パーセントにしていくという目標です。それで、ものすごく頑張り始めたわけです。
この習近平さんが作ったファンドですが、清華大学に1つその基礎をどんと置いたのです。そして、清華大学のファンドを使うのですが、清華大学は優秀な学生が集まっていますから、彼らを使った「紫光(しこう)集団」がお金の力で世界中のメーカーを買い漁ったのです。
しかし、結局あまりにも乱暴なことをしたので挫折しますが、であればそのお金を使ってこのような工場を造ろうということになり、ものすごい勢いで工場を造り始めたのです。ということで、世界の全工場を造るより中国の工場建築のほうが多かった時代がありました。
さらに、工場を造ると半導体の製造装置を作らなければいけないので、それもどんどん作り、今ガラ(形)だけは中国が世界一です。ところが、最先端(の半導体)がない。一番重要なものがないわけです。この最先端のところは台湾のTSMCに頼んでいるのですが、問題はいろいろな方法論のところです。(例えば)マスキングとか最先端の半導体を作るのに非常に緻密な技術があり、その技術はほとんどアメリカです。アメリカのファブレスがみんな持っているのです。
ですから、アメリカのファブレスの技術を導入して、最先端は台湾に作らせて、中国が世界最大の半導体大陸ですよと言っているだけの話で、真ん中が抜けているわけです。しかし、彼らは必死になって今アメリカを追いかけようとしているので、アメリカも本当はうかうかしてはいられない、という状況が今です。
ところが、今のアメリカを振り返ってみると、とんでもないことをやっていると、技術と安全保障の専門家たちが気がついたのです。つまり、アメリカの本土の中で半導体を作れない。 どこで作らせているかというと、TSMCに最先端はみんな作らせている。量で稼ぐものは、韓国のサムスンに作らせている。あるいはSKハイニックスという会社に作らせているのです。
アメリカにはインテルという立派な会社がありますが、なかなかうまくいかないのです。そのような足元が寂しい状況になっていて、頭脳ばかりで儲けるような構造にアメリカはなっているのです。これで一朝、事が起こったらどうなるか。 サプライチェーンが空洞化していますから、アメリカは立ち行かなくなるのです。それで、これは危機だということに気がついたのです。バイデンさんというより、バイデンさんを取り囲んでいる安全保障と技術の専門家たちです。アメリカ大統領が強いのは、背後にそういう人たちがいることです
ということで、気がついた、これはまずいと。ではどうしたらいいかということになり、台湾がその最先端の9割を作っていますから、台湾をアメリカが確保しなければいけないということになったわけです。ところが、台湾は中国のものにすると習近平さんが叫んでいます。それで絶対に台湾は譲らないぞという戦略を、アメリカは取らざるを得ないわけです。そこで、トランプの時代から始めたのですが、どんどん武器を台湾に渡しているわけです。台湾を渡さないぞと。
もう1つ、アメリカ国内に世界最強のサプライチェーンを作らないとアメリカが危ないと。それで、どうしたらいいかですが、インテルは結構強いけれども、TSMCに比べたら全然勝負になりません。台湾企業のほうがずっとい...