●連続して支持率を落とす中で起死回生の妙策
次に「アメリカ雇用法案」ですが、これは雇用というよりは、アメリカの設備の多くはもうボロボロになっていますので、それをリニューアルするということでした。これも日本円にすると8年間で260兆円です。その次の家族法案というのは、実はアメリカの労働者のスキルを高めるということなのです。
ですから、実はインフラを整えて、スキルを高めて、競争力を強めて中国に勝つという戦略でした。最初の新型コロナから救済するというのはうまくいきましたが、次の雇用と家族法案は、その予算をどこから持ってくるか、です。
バイデンさんは、アメリカ救済法案はアメリカの国債でファイナンスして、それをうまく通しました。もう1つは雇用法案で、これは実はインフラを立派にするという法案なのですが、財源は富裕層に税をかけることと、企業課税を重くするということですから、共和党は絶対許さない、財界も許さないということで、同じことを家族法案でやったわけです。
それでバイデンさんは、自分の大戦略が通らないものですから、政治的にすごく難しい立場に立ってしまったのです。その時に、民主党の中にはっきりいうと裏切り者のような人がいました。ウェストバージニア州の上院議員で、ジョー・マンチンという人がいます。ウェストバージニアは石炭を生産している州です。
バイデンさんは環境派ですので、石炭を止めようという話ですから、それはとんでもないということで、あらゆるところで邪魔をするわけです。当時の上院というのは、民主党が50人、共和党が50人で、民主党のジョー・マンチンが共和党以上に共和党のようなことを言うと、共和党派が51人になってしまうのです。民主党が49人です。
そうすると、バイデンさんの投げる政策が全部通らなくなりました。それでバイデンさんはがっかりしてこの規模を半分にします。それでも通らないということで、本当に人気も落ちてしまい、アフガニスタンから撤退することでも人気は落ちるし、インフレ政策も失敗したということで、どんどん落ちて非常にかわいそうな状況になっていました。
その時にバイデンさんが、九死に一生を得るようなことを考えました。「IRA(Inflation Reduction Act)」という、インフレを抑制するという名前にしたらどうかと言ったら、ジョー・マンチンもいいじゃないかと乗ってきたわけです。そうして共和党も乗ってきました。
●半導体の新戦略で共和党を取り込む
それでもう1つ、その中にもっと共和党が乗りそうなものを入れたのです。それは何かというと、アメリカで半導体(産業)を強化する、競争力を強める、それは中国をやっつけるためだ、と。そう言ったら共和党が乗ってきたわけです。それでこれが成立したのです。
そしてIRAというのは、強引なことをやっています。例えば、医薬品の値段を安くするとか、電気自動車に補助金を出すとかです。それがインフレ抑制になるのかあまりよく分かりませんが、要するに、バイデンさんが自分でやりたかった政策を、何でもありの頭陀袋のようなものに投げ込んだのです。これがIRAだと思います。
しかし、刃物のように非常に鋭いのが「CHIPS and Science Act」(CHIPS法)で、これは半導体(産業)を徹底的に助け、それで中国を締めつけます。これには共和党がみんな乗ってきているのです。それでバイデンさんはいつの間にか、政治力が非常に強くなったという背景があって、これが出てきたと私は見ています。
このようなことをやると、どういうことが起きるのでしょうか。中国を締めつけますから、中国だって生きていかなければいけないので、必死になって自分たちで技術開発をしようとして、中国の経済圏でそれをやろうとします。そしてアメリカは中国とのつながりを切っていますので、アメリカから技術は流れません。そうすると、世界が分断します。
これを「デカップリング」といいますが、デカップリングさせると世界経済は収縮します。バイデンさんは、結果としてそのようになることを強烈に進めているのです。
もう1つ、驚くのは自由主義の原則を自ら否定していることです。IRA(インフレーション・リダクション・アクト)の中で一番大きなものは、電気自動車をどんどん生産させるため、買っても約200~300万円の電気自動車に、約100万円の補助金をつけたことです。(ドルにすると約)7500ドルの補助金です。
そうすると何が起きるでしょうか。 ヨーロッパでもEV(電気自動車)を作っている会社がたくさんあります。それらの会社がアメリカで販売するには、アメリカ国内で作らなければならないという条件がありますので、ヨーロッパを出てアメリカに工場を移そうとしているのです。
これには(フランスの大統領)マクロンさんが...