●アメリカの要請が火をつけた半導体立国戦略
最近、半導体の復活熱のような話が高まっているのです。皆さんもいろいろなところで聞いておられると思いますが、これにはいくつかの理由があると思います。それは、情報が加速度的に進んでデータが非常に重要になり、データ処理には半導体がなければできないということです。それから、政府が経済の競争力を高める上で、その基本的な戦略物資はやはり半導体ではないかということです。さらに経済安全保障においても、強烈な戦略物資としても半導体があると、皆さんが認識するようになったことです。
米中対立が激化する中で、アメリカはその半導体のサプライチェーンを強靱化するために、日本に手伝ってくれと言い出したのです。これは40年前には考えられないことで、40年前は「日本を潰せ」でしたから。それで日本の政界・財界はちょっとその気になってきたことから、今、半導体立国にしようよと(いう機運が高まっています)。
そして、2021年の5月21日に半導体戦略(推進)議員連盟というものが結成されています。この会長は甘利明さんで、最高顧問が安倍晋三元総理でした。それから麻生太郎さんをはじめ、ずらずらと揃っており、「半導体を制する者は世界を制する」という、この人たちが大好きな言葉にも表れています。同じ5月に政府は半導体デジタル産業戦略というものをまとめました。
それで翌2022年の11月に、2次補正で半導体支援策をどんと総額1.3兆円、日米が連携する次世代研究拠点の整備に3500億円、先端半導体の生産拠点の4500億円で、これはのちにTSMCの補助金になりますが、それから生産に欠かせない素材・部材3700億円というものです。これが翌2023年の4月、デジタル産業戦略の改訂版が出ました。
この改訂版では、国内で生産した半導体の売上高を、2030年に15兆円にする。それから国内の半導体拠点整備に2年間で2兆円使う。これはTSMCにも使っているわけですが、また4月には北海道に半導体企業を作ると名乗りを上げたラピダスという会社に2600億円を出すとして、これも政府の戦略にしたのです。
●驚くべき早さで進む海外半導体企業の誘致
そして、日米協力が非常に強化されました。スタートは2年前の2021年(4月)、バイデンさんと菅義偉前首相の首脳会談です。あの時の共同声明にいろいろなことが書いてあります。台湾問題も初めて歴史をあそこで書きましたが、実は機微なサプライチェーンで連携するということが書かれているのです。これは、半導体を強化する、日米でやるということです。
そのために、翌2022年5月に今度はバイデンさんが日本に来て、岸田文雄首相と会って首脳会談をやりましたが、その時に日米は、重要技術の保護育成に高い競争優位を維持してサプライチェーンを強靱化するという文章が入っています。これも半導体です。それで岸田さんも大いに一緒にやりましょうと言っています。
それから、今までは2プラス2ということをやっていますが、これは外務大臣と防衛大臣がやるものです。しかし、経済版の2プラス2をやるということになって、初めてそれを7月29日にワシントンでやりました。
それで2023年5月19日から21日まで、広島でサミットをやりました。前日の5月18日に、海外の半導体大手7社のトップを首相官邸に招いて、「皆さん、御一緒にやってくれ、日本は補助金をどんと出す」ということを思い切って言っているのです。
これが日米協力です。そして5月末に、西村康稔経済産業相とアメリカのレモンド商務長官で、半導体日米ロードマップ(行程表)まで作ろうということになりました。ですから、日本の政治、行政、財界、みんな大乗りで、行こう、行こうということになったわけです。
そのような流れの中で、今、脚光を浴びているのが2つあり、1つが台湾の世界最強の企業といわれているTSMCを日本に誘致するという話です (編注:もう一つは次回解説)。ただ、TSMCはその話が起きる前に、TSMC自身がつくば市に3次元半導体の研究拠点を「日本の企業と協力してやりたい」といって、作っています。その直後に経産省は、そのようなものにも研究開発の支援をするというお墨付きを与えています。
それで日本がいよいよTSMCを誘致するということになり、2021年10月14日、TSMCは日本に来ますと言ったわけです。そして、この増設支援の改正法を、同年12月20日に参議院の本会議で成立させました。この日本の動きはすごく速いのです。
それから、NEDO(ネド)という新エネルギー・産業技術総合開発機構という仕組みがありますが、そこに設置する基金から複数年にわたって多額の補助金を出すことになっています。(補助金)4760億円を、政府は2021年6月17日に決めています。新工場は2024年の12月に出荷するということです。
そこでは...