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CHIPS法成立!半導体支配を目論むバイデン政権2つの理由

半導体から見る明日の世界(4)米国「CHIPS法」成立と中国の脅威

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
5G通信で先行した中国に対して、アメリカは情報ネットワークの脅威に直面した。中国への危機意識は、トランプ政権からバイデン政権に代わってもますます強まっている。そこでバイデン大統領は「CHIPS法」といわれている半導体製造促進法を成立させたのだが、そこには2つの理由があった。それは何か。バイデン大統領が唱える「グリーンニューディール」政策の背景と合わせて解説する。(全12話中第4話)
時間:07:24
収録日:2023/07/14
追加日:2023/09/18
≪全文≫

●「CHIPS法」成立の背景と2つの側面


 それでは皆さん、バイデン政権の半導体(産業)を支配しようという戦略があるのですが、ここをまずお話ししてみたいと思います。バイデン政権は半導体を支配する戦略として法律を作りました。これを「チップス・アンド・サイエンス・アクト(Chips and Science Act)」といいますが、「半導体製造促進法」というような訳ができます。チップというのは半導体のチップのことです。

 バイデン大統領は2022年8月9日に、「CHIPS(チップス)法」といわれている、その法律を作って成立させました。その法律を作った背景には、アメリカがそれまで30年間続いたグローバリゼーション、つまりアメリカは世界1強で、世界中がアメリカと一緒にやってくれるのだという前提があり、それで(その法律を)作っていますから、アメリカは頭脳のファブレスの会社だけを持っていて、世界中に作らせれば半導体はできてしまうわけです。

 それは最初のほうの講義で示した図にあるように、アメリカの比重がものすごく高いのは、そういう何重計算が入っていますから、あのようになるので、それはすぐには分からないのですが、そのようなことをやっていたのです。

 ところが、(アメリカは)足元で半導体の製造をやっていないことに気がつきます。これは非常に危ないと。有事になったらサプライチェーンが止まりますから、アメリカが逆に干上がってしまうということに気がついたのです。

 この法律には2つの側面があるのですが、1つは徹底的にアメリカの国内に半導体の生産拠点を持つこと、もう1つは中国を締め上げることです。それで、中国を締め上げるためにどうしたかというと、2022年10月7日に、商務省が中国に対する半導体の強烈な規制を課しました。

 これは中国だけではなく、日本にもオランダにも、それこそ世界中に課したのです。アメリカという国は強引です。アメリカに強く言われると、他の国はついていかざるを得ないという状況になっていて、それを使って中国の首を絞めてしまおうという、2つの側面があるのです。


●中国の脅威は貿易ではなく情報だった


 ただ、ここで皆さんと考えてみたいのは、なぜバイデン政権がそこまで厳しいことをするのか、ということです。トランプさんはとんでもない人で相当乱暴な人でしたが、しかし、ここまではやっていないのです。なぜバイデンさんはトランプさんをはるかに上回ることをしたのでしょうか。

 これは少し私の考えも入っています。まずトランプ政権からいきたいのですけれども、米中対立というのはトランプ政権で急に浮上してきた概念です。トランプさんは大統領選の時、こう言いました。中西部のアメリカ人の労働者に向かって、「君らの仕事はみんな奪われただろう。中国と日本に騙されて持っていかれた。俺はそれをものすごい関税、懲罰関税をかけて取り戻してやるんだ」と。

 それでどうなったかというと、ものすごい関税をかけました。では、仕事は取り戻せたかというと、全然取り戻せなくて、逆に中国からのアメリカへの輸出が増えてしまったくらいです。結局、2021年に痛み分けしてしまいました。

 しかし、関税を高くして中国などの輸出国の製品が入ってこないようにすれば、自分の国の労働者に仕事が出てくる(生まれる)というのは重商主義であって、200年前の議論なのです。世界中で帝国主義が始まる頃の議論です。

 ところが、トランプさんの後ろには、ものすごく頭のいい、軍事・技術・経済の専門家がずらっとついています。この人たちが、「中国の脅威は貿易ではなく、一番の脅威は情報だ」と気がついたのです。それは何かというと、ファーウェイという会社が中国にありますが、ファーウェイは世界の通信が4Gから5Gになる時に主導権を取りました。

 5Gというのは、4Gの電波と相当違います。波長がすごく短くて直進するのです。ですから、前に大きな建物があったり、小さな山があったりするとそれ以上行きません。そのために基地局を作って、野球のキャッチボールみたいにどんどん電波を送っていくようにするのですが、ファーウェイはその基地局がものすごく優れているのです。

 その基地局の性能は、ヨーロッパが作っているものの倍ぐらい良くて、値段は半分以下です。ですから、ワーッと世界に広がります。それでファーウェイの作った5Gのネットワークが世界をカバーすると何が起きるかというと、中国の共産党に情報が全部抜かれてしまうという可能性があるわけです。そのことに気がついて、ファーウェイを締めつけるということをトランプ政権の時にやったのです。

 その時、総務省は「エンティティ・リスト(Entity list)」というものを持っているのですが、このエンティティ・リストを一言でいえば...
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