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四字熟語で見る中国外交の変化

「中華民族の偉大な復興」と中国外交(1)外交姿勢・前編

小原雅博
東京大学大学院 法学政治学研究科 教授
情報・テキスト
現在、中国が世界における影響力や存在感を強めている。大国となった中国の外交は、どのような変化を経て、何を目指しているのだろうか。中国外交の特徴と変化を5つの四字熟語から解き明かす。(全4話中第1話)
時間:12:32
収録日:2019/04/04
追加日:2019/05/21
キーワード:
≪全文≫

●四字熟語で見る中国外交の変化


 皆さん、こんにちは。このシリーズでは、「中華民族の偉大な復興」といわれるほど台頭している中国の外交について、論じていきたいと思います。現在、アメリカが衰えを見せて自国第一主義に走る中、「大復興」する中国が世界での影響力や存在感を強めています。そのような中国の外交は、どう変化し、何を目指しているのでしょうか。

 第1回(前編と後編に分けて)は、そのような中国外交の特徴を、中国特有の四字熟語によって解説していきます。文化大革命後に政治の中央舞台にカム・バックして改革・開放への大転換を成し遂げた鄧小平の時代から、今日の習近平国家主席の時代まで、中国外交の在り方は内外環境の変化を背景に大きく変化してきました。

 この変化を時系列に沿って整理すれば、「韜光養晦(とうこうようかい)」、「平和発展」、「積極有所作為」、「核心利益」、「奮発有為」、この5つがキーワードになります。これらの熟語は、中国の外交姿勢の変化を表すとともに、中国のパワーの変化を反映するものです。


●「韜光養晦、有所作為」


 最初に、「韜光養晦、有所作為」という熟語を見てみましょう。まず「韜光」とは、外に現れる能力(「光」)を隠す(「韜」)ことを意味します。また「養晦」とは、月のない夜(「晦」)に修養する(「養」)ことを意味しています。これは、鄧小平が始めた経済の改革と開放に専念して、力を蓄え、時を待ちながら、「有所作為」をする、すなわち、できることを少しだけやる、そういう方針を示しています。つまり、国力が劣勢なうちは紛争を避け、他国との摩擦や対立を減らそうとする。国際社会の警戒感を招かないように、対外的に目立たず、低姿勢を保ち、専ら国力の回復と増進に努める。それが天安門事件後における鄧小平の戦略でした。あるいは戦術といった方が良いかもしれません。

 鄧小平は1992年に、「韜光養晦をもう何年か続けることで、初めて比較的大きな政治的力を持つことができ、国際社会での発言力も違ったものとなるであろう」と述べ、「韜光養晦」という路線を続けることを指示しています。その後の中国はこの鄧小平の指示を守り、経済建設に専念しました。そこでは、年率10パーセントを超える高い成長を続け、90年代末には、東南アジア諸国の強力な輸出競争相手となります。

 韜光養晦の下における中国の経済成長以降、中国への警戒感が高まり、脅威論も語られるようになりました。そこで中国は、ASEANの呼び掛けに応じて、日本および韓国とともにASEAN+3(日中韓)首脳会議に参加し、「人民元引き下げはしない」と明言をしました。その背景には、こうした中国脅威論の高まりを抑え、良好な周辺環境を整えたいという、「韜光養晦」戦略があったといえます。

 アジアに対する外交のことを中国は、アジア外交とはいわず、「周辺外交」といいます。この「周辺」という言葉には、伝統的な中華思想もにじんでいます。中国の地域的多国間外交への積極的参加は、「周辺」概念がアジアという「地域」概念の色を帯びることで、中国対周辺ということではなく、アジアの中の中国という視点を育む機会となったように思います。

 当時私は、ASEAN+3首脳会議の日本代表団席にいて、中国首脳の発言を聞いていました。そこでは、中国の協調的で融和的な発言がことのほか、印象に残っています。その後も中国は、「ASEAN自由貿易地域」創設の提案や、日本に先駆けた「東南アジア友好協力条約(TAC)」への署名など、「韜光養晦」の下で建設的な「有所作為」に努めたといえます。


●「平和台頭」から「平和発展」へ


 2001年のWTO(世界貿易機関)への加盟を経て、中国の経済台頭に対する世界の関心は、一層高まりました。これに対して中国は2003年に、中国共産党の中央党校の元常務副校長であった鄭必堅氏が、ボアオ・アジアフォーラムにおいて「平和台頭」論を発表しました。その後には温家宝首相がハーバード大学において、「中国が選んだのは平和台頭の発展の道である」と述べました。さらに胡錦濤国家主席も、毛沢東生誕110周年記念座談会における講話で「平和台頭」を強調しました。こうして2000年代初頭には、「平和台頭」が中国政府の公式の戦略思想となったのです。

 問題は、「平和」であろうと何であろうと「台頭」は台頭であり、台頭自体が周辺国の不安や懸念を惹起し、他の大国の警戒感を呼び起こすという、国際政治のリアリズムにあります。意図がどうであっても、一国の急激な力の増大は現状変更につながり、安定、平和、調和といった価値を揺るがします。そして、バランス回復へのダイナミズムが動き出すのです。台頭する国家に対抗する他の諸国の提携・連合は、国際政治の自然の摂理ともいえるでしょう。それは中国自身が、合従連衡(がっし...
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