●「新型大国関係」
今回は、中国の大国外交、特にその「新型大国関係」を中心に議論をしたいと思います。
アメリカにおいて、米中間の覇権争いがいずれ戦争に至るとの見解は、決して珍しくはありません。しかし、中国からは、相互依存の深まる米中関係はかつての大国関係や冷戦中の米ソ関係とは異なっている、そういった声が聞こえます。すなわち、新しいタイプの大国関係を確立することによって、新興・既存の大国間で戦争が不可避になるという「トゥキディデスの罠」を回避できるという見解です。
2013年6月、国家主席として初めて訪米した習近平氏は、バラク・オバマ大統領との首脳会談において、「1.対抗しない、衝突しない、2.相互尊重、3.協力とウィン・ウィン」(中国語で「不対抗、不衝突、相互尊重、合作共贏」)という14文字方針の「新型大国関係」を提案しました。楊潔篪国務委員の解説によれば、「ゼロ・サムゲームの考えを捨て、自国の利益を求める時、相手の利益にも配慮し、自国の発展を求めると同時に、共同発展を推進し、絶え間なく共通利益を実現するための仕組みを模索する」ということです(これは、中華人民共和国中央人民政府ウェブサイトに、2013年6月9日に掲載されたもの)。
2014年11月に北京で開催された米中首脳会談において、習近平国家主席は、「新型大国関係」について、2013年に提起した3原則を6原則に広げて再提案しました。その中には、次のような新たな諸原則があります。
1つ目は、「中国とアメリカは国情が異なる二つの大国で、互いの主権と領土保全を尊重し、それぞれが選んだ政治制度と発展の道を尊重し、自らの意志とモデルを相手方に押しつけない」というものです。2つ目は、「相手方の核心利益を損なうことをしない」というものです。3つ目は、「アジア太平洋地域において互いに包容し、協力を進める。広大な太平洋は米中両国を受け入れる十分な大きさがある」というものです。
1つ目と2つ目は、イデオロギーや価値をめぐる闘争を避け、「核心利益」を尊重することを意味します。それは、アメリカによる干渉やいわゆる「和平演変」すなわち平和的体制転換、これらに対する中国の警戒感や防衛本能の裏返しでもあるといえます。逆に、最後の3つ目には、中国大国外交の自信と本音が垣間見えます。特に、「広大な太平洋は米中両国を受け入れる十分な大きさがある」と...