●「インドの参加」が持つ重要な意味
―― そのような日米首脳会談の後を受けて、インドとオーストラリアの首脳が加わったQUADの会合ですが、今までのQUADの積み重ねの上で、今回はどのような意味があったのでしょうか。
中西 今回のQUADは、何といってもバイデン大統領のアジア歴訪の過程で開かれています。QUADはもともと、インドをいかに引き込むかということが非常に重要でした。そして対中国については、軍事を含まないソフトな形で牽制・抑止する。そういった一つの多国間の枠組みなのです。
その中で今回は首脳会談ですから、インドからはモディ首相が参加しました。オーストラリアは政権交代をして、労働党のアルバニージー新首相が出席した。しかし、特に重要なのは、やはりインドです。
インドという国は、決してアメリカの同盟国ではありません。日本もオーストラリアもアメリカの同盟国ですから、本来はこの3カ国でやればいい。あるいは韓国を入れて、4カ国でやってもいい。ところが、インドを入れているのは、やはり21世紀に中国を凌駕するかもしれない超大国だからです。このインドを引き入れているというところが、QUADという枠組みの最大のポイントなのです。
そして今回、先ほど言ったウクライナの戦争をめぐっては、ロシアをいかに孤立させるか。徹底的にロシアを追い詰め、弱体化させ、できればプーチン政権を倒して、ロシアを再び民主化の方向に向かわせる。これがアメリカの壮大な目標なのです。
その中でインドは、ロシアの側に立つか、アメリカ・NATOの側に立つか、はっきりとしない。しかし、対中国ということでは敵対関係にある。このインドの帰趨が非常に重要なのです。そういった意味で、インドのQUAD参加が大変重要な意味を持ってくるので、バイデン大統領は日本におけるQUAD開催を大変重視して歴訪に来たのです。
●アメリカによるIPEF戦略の成功
中西 その中で今回、特に注目されたのは、「IPEF(インド太平洋経済枠組み」で、主として経済をめぐる多国間の枠組みです。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)には加盟していないアメリカがリーダーシップを再び発揮し、中国を加盟させないアジアにおける経済枠組みをつくりました。ここにインドを加盟させたIPEF(インド太平洋の経済枠組み)は、大変重要な意味を持ってくるのです。
このIPEFという枠組みを立ち上げることが今回、バイデン大統領のQUAD出席の大きな目的の一つです。そして見事に、バイデン政権が掲げるIPEFに参加する国が多くなって、インドも首尾良く参加させることができました。
当初は、IPEFといってもTPPとは違って、アメリカ市場にアクセスできるアメリカの関税引き下げを行わない。アジア諸国に対する有利な関税の引き下げをアメリカが行うことを、議会と労働組合が反対している。こういったことで、この関税引き下げ条項を持たないIPEFに、アジアの国はほとんど参加しないのではないかという下馬評がありました。ですが、それを見事に克服して、14カ国も参加を表明しました。これはバイデン大統領のIPEF戦略、アジア政策の一つの成功だったといっていいでしょう。
インドがよくここに参加したなと思いますが、IPEFの中には「サプライチェーンの見直し」があります。特に、インフラの問題や、サプライチェーンに対する半導体の問題で、中国を除く主要なアジアの経済枠組みとして、インドを引き入れる。もちろん日本も先頭を切って参加しましたし、アジア太平洋の島国であるフィジーまで参加しました。ASEAN諸国も、カンボジアやラオスといった中国と特段に近い国を除いてほぼ参加しています。ということで、今後このQUADは、IPEFを支える政治枠組みとしても意味を持ってくるのではないでしょうか。
その一つの流れとして今回、バイデン大統領が日本に来る前に訪問した韓国で、米韓首脳会談が行われました。新しく成立した韓国の親米保守政権であるユン・ソクヨル(尹錫悦)大統領とバイデン大統領の会談がありました。この米韓首脳会談でユン大統領は、韓国もQUADに参加したい、もちろんIPEFにも参加する、と意思表明しました。韓国のムン・ジェイン(文在寅)政権の対北寄り、あるいは親中のスタンスを大きく転換して、親米路線へ、あるいはこのアジア太平洋の対中包囲網の中に韓国自ら参加していこうという意思を表明した。これもバイデン外交の非常に大きい成果だったと思います。
いずれにしても、このことも含めてIPEFが今後、QUADを経済的にどのように支えていくか。とりわけアジア・インド・太平洋におけるインフラ支援にもIPEFは大きな役割を果たします。そこにメリットを感じて参加する国が急に増えたのです。インドもそれを一つの目標にしているでしょう。
中国以外の国の支援によるインフラ整備は、やはり...