●日本人が信じている習近平の宣伝
―― 皆さん、こんにちは。本日は、このたび『2020年「習近平」の終焉』(悟空出版)という本をお書きになりました日高義樹先生に、米中対立をどう読むかというテーマでお話を伺いたいと思います。この本の中で日高先生は、「もう米中対立時代は終わった話なのだ」とお書きになっています。特にそれを軍事的な面で、中国の軍事はアメリカに到底対抗できないレベルになってしまった、と論じておられます。まず、その点をお聞きしていきたいと思います。
日本では、まさに今、米中対立の真っ最中であるとか、今は確かに弱いかもしれないけれども5年、10年のスパンで見れば、中国はだんだんアメリカを圧倒していくのではないか、というような見方をまだされている方も多いと思います。先生はアメリカの状況をご覧になって、もうそんな話ではない、とっくにアメリカが中国を圧倒してしまっているのだということですが、具体的に、一番象徴的な話というと、どういう部分になるでしょうか。
日高 その点についていえば、日本の人が考えていること、アメリカの学者が考えていることは、習近平の宣伝通りにしゃべっているのだろうと、私は思います。
―― 宣伝通り、ですか。
日高 習近平が言っている話というのは、こうです。悠久の歴史5000年の中国というものが世界の中心であって、これまでも世界の文明を動かしてきたけれども、われわれはこれを再現しなければならない。こういう宣伝をして中国人のナショナリズムをあおり立てて、「次の世界は中国だ」と言っているのです。そのために彼はお金も使っています。アメリカの大学にもお金を使っています。そして日本にも使っていると私は思うのですが、その通りのことを言う学者、ジャーナリストが多すぎるのです。
●「中国の時代」は終わってしまった
日高 実際に何が起きているか。まず第一に、中国はもうすでに経済が小さくなっています。GDPが大きくなっていると言っているけれど、これは政府の貸出、銀行の貸出といった貸出業務で拡大した数字をGDPのプラスに入れて中心にしている、というのがまず第一です。したがって、中国の経済は習近平が何と言おうとも、すでに縮小している。
二番目は、中国の人口は2011年がピークで今は減っているということです。したがって、若い有能な労働者は減っているし、経済力も少なくなっています。そのうえに、習近平の行っている政治は一帯一路だとか、あるいはアメリカと対等であるとか、アメリカの後は中国だと言っているけれども、実際に一帯一路はどこまで進んでいるのか、あるいは、アメリカに代わって世界の覇権をどこまで握っているのかというと、失敗に終わったという見方もすでに学者の中では多く出ているのです。フーヴァー研究所の大研究というものが2019年4月の中旬ごろに出ましたが、やはり「中国の時代」は終わってしまったと考えていいのではないでしょうか。
●軍事力全般で中国は遅れを取っている
―― 今、先生は経済と人口についてご指摘なさったのですが、『習近平の終焉』の本では、技術というか軍事的な部分でお書きになっていますね。一つにはアメリカ軍がオバマ大統領の時とは違って、戦略的に相当前進している、進歩しているというところですね。対中戦略において。
日高 軍事力でいうと、中国が世界有数の軍事力を持っていたということはあり得ないのです。例えば、核兵器です。今、世界では核兵器が軍事力の最先端にありますけれども、1945年から、アメリカは1040回ほどの核実験をやっています。ところが、中国はわずか40回ほどです。
核実験もしないで、どうやって核兵器を持ったのか。今、中国は、アメリカ、ロシアに次ぐ核兵器を持っているけれども、核弾頭、小さいのは長さ30センチくらい、直径10センチくらいのものになりましたが、それは全部、アメリカの技術を盗んだもので、独自の技術による核兵器は中国には無いのです。
核兵器だけではなくて、今の兵器の最先端は無人化された兵器、それからステルス、つまり見えない飛行機、あるいは船ですね。三番目が電磁波です。世代的にこの3つになっているのだけれども、どれを取ってみても中国はこういった兵器を持っていません。
中国はステルスの飛行機をつくろうと思っていろんな苦労をして、J-20というものができたにはできたけれども、ほとんど使いようがないですね。無人偵察機、無人飛行機の間の交信技術がないからです。交信すると発信地点から場所を推定されて、見えない飛行機が攻撃されてしまいます。アメリカはすでにMADL(Multifunction Advanced Data Link)を開発して、中国の2世代、3世代先のステルス戦闘機をつくっています。
●トランプの圧力に国内的にも瀬戸際の中国
日高 そういう状況から見て、私は...
(日高義樹著、悟空出版)