労働経済を学んでいた島田氏は、ウィスコンシン大学留学中、労働者の教化運動に参加している。アメリカ産業史を学習する中、労働運動の実態を触れ、ウォルター・ルーサーとヘンリー・フォードの熾烈な闘いを知ったからだ。労働組合を敵視したフォードはギャングの手を借りることも辞さなかった。今回は、その後のトランプ支持層ともいえるグリーンベイの労働者たちに会ったエピソードも交えて、アメリカ労働史について語っていただいた。(全7話中第4話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツ・アカデミー論説主幹)
≪全文≫
●古きよき産業草創の裏に隠された労働史
―― 先生はフルブライトで留学されたときに、ウィスコンシンで労働経済を選択されました。そこでまさに労働運動を目の当たりにされたわけですね。
島田 そうです、しています。
―― そこで労働者に混ざって、どんどん教えに行ったわけで、それはすごい体験ですね。
島田 ウィスコンシン大学は州立大学ですが、ミシガン湖のほとりのマディソンという学術都市にあります。そこにいたのですが、とてもリベラルな大学でした。ウィスコンシンというのは、いってみれば民主党がずっと勝っていた州で、トランプ氏の(大統領選挙の)ときに初めて負けた。(大学にも)そういう学風がある。つまり労働者や弱い人などを救わなければいけないと。
―― なるほど。
島田 私はドクターコースで研究している間、ずいぶん可愛がられていたのですが、助教授の下っ端のような扱いをされていました。真冬になると雪の多い土地柄で、「みんなで労働者を助けに行こう」と、5、6人の先生たちと一緒に車に乗って行ったものです。
私が何回も行ったのはグリーンベイという街ですが、後で知ったところでは、グリーンベイ・パッカーズというアメリカでは有名なプロ・フットボールチームがあるのです。そこに労働組合が持っている大きな研修所のようなものがあって、夜中に出掛けていったわれわれは、彼らのためにいろいろコーチというか、ティーチングをやるわけです。
なぜこういうことを始めたかについては、過去の原因や、(今日の話とは)全然別の意味でのアメリカの経営者層などの経緯を少し振り返る必要があると思います。
アメリカの産業がどんどん発展したのには、例えばロックフェラーが石油事業を行ったとか、いろいろなケースがあります。中でもアメリカの製造業で最も偉大なのは、やはりUSスチールとヘンリー・フォードの自動車です。
また、ゼネラル・モーターズが合併を重ねて大きな企業になりますが、「黄金時代」と呼ばれる頃があった。その黄金時代になる前の1920年~1930年ぐらいのとき(私は「草創期」と呼んでいます)が、いってみればアメリカの産業革命でした。その頃のUSスチールはカーネギーがやっているし、日本でいえば松下幸之助氏のようなポジションの人たちが産業をつくって、どんどん広げる動きがありました。
ウィスコンシン大学に行って労働の...