科学技術とイノベーションマネジメント
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
次の動画も登録不要で無料視聴できます!
力を入れるべき教育分野を見定めるのが難しい理由
第2話へ進む
国の経済成長にはイノベーションの影響が大きい
科学技術とイノベーションマネジメント(1)学術的理解
梶川裕矢(東京大学 未来ビジョン研究センター 教授/東京科学大学環境・社会理工学院 特定教授)
東京工業大学環境・社会理工学院教授の梶川裕矢氏は、「イノベーション」という言葉がさまざまな形で捉えられ、見方が定まっていないことを指摘する。それでは学術的には、イノベーションとはどのようなものとして理解できるのだろうか。経済成長の要因や日本発のイノベーションである光触媒技術を事例に解説する。(全7話中第1話)
時間:11分33秒
収録日:2018年6月18日
追加日:2018年10月10日
カテゴリー:
≪全文≫

●「イノベーション」とは何か


 東京工業大学の梶川裕矢です。本日は、「科学技術とイノベーションマネジメント」というタイトルでお話しします。

 「イノベーション」という言葉は、皆さん耳にたこができるぐらい聞かれているかもしれません。しかし、改めて考えると、この言葉の意味は何か、どうすればイノベーションを起こすことができるのか、と問われると、なかなか難しいと思います。

 イノベーションの捉え方は、人によって異なっています。ある人は科学技術を中心に考えるでしょうし、ある人はそうした科学技術が事業化され、持続的な企業として発展していくものとして捉えるでしょう。また、単に経済的な価値を生むだけでなく、社会や人の生き方を変えるものがイノベーションである、と捉えている人もいると思います。

 そこでまず、イノベーションが学術的にはどのように語られているかを見ていきます。


●国の経済成長には、4つの因子が関わっている


 この表は、2008年に技術経営分野の研究者であるヤン・ファーガーバーグ氏とマーティン・シュレック氏が共著で書いた、国の経済成長とは何によって規定されるのかを分析をした論文で議論されたものです。

 国の経済成長は、誰もが関心のあるテーマだと思いますが、彼らが行った研究は非常に単純なものです。論文や特許の数、ISO(国際標準化機構)の認証数や大卒の割合など科学技術関係の指標や、それに限らず民主主義や知的財産権に関する制度がどの程度整備されているのかというデータから、これらとGDP(国内総生産)という経済成長の指標の相関関係の分析を行いました。

 ここからは少しテクニカルな話にはなりますが、分析の際にある変数と別の変数の間で非常に強い相関があり、それらが説明変数に含まれる場合、「多重共線性」といって、統計的に頑健な結果が得られないという問題があります。したがって、まず因子分析という、同じような変化の傾向を持つ変数をグループ化する作業を行いました。その結果、彼らは、経済成長は4つの因子で説明できることを見いだしました。

 1点目は「イノベーションシステム(Innovation system)」という、表のオレンジで囲った部分です。ここでは、その国の論文の数や特許の数、大卒割合などに非常に高い...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「科学と技術」でまず見るべき講義シリーズ
培養肉研究の現在地と未来図(1)フェイクミート市場とリアルミート研究
食肉3.0時代に突入、「培養肉」研究の今に迫る
竹内昌治
巨大地震予知の現在地と私たちにできること(1)地震予知研究と前兆すべり
地震予知に挑む!確かな前兆現象を捉える画期的手法とは
梅野健
性はなぜあるのか~進化生物学から見たLGBT(1)有性生殖と無性生殖
なぜ雄と雌の2つの性別があるのか…「性」の謎とLGBT
長谷川眞理子
本当によくわかる「量子コンピュータ入門」(1)量子コンピュータとは何か
「量子コンピュータ」はどういうもので、何に使えるのか
武田俊太郎
ChatGPT~AIと人間の未来(1)ChatGPTは何ができて、何ができないか
ChatGPTは考えてない?…「AIの回答」の本質とは
西垣通
ブラックホールとは何か(1)私たちが住む銀河系
太陽系は銀河系の中で塵のように小さな存在でしかない
岡朋治

人気の講義ランキングTOP10
平和の追求~哲学者たちの構想(6)EU批判とアメリカの現状
理想を具現化した国連やEUへの批判がなぜ高まっているのか
川出良枝
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方
「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?
東秀敏
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境に対峙する哲学カフェ…西洋哲学×東洋哲学で問う矛盾
津崎良典
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
組織心理学とは何か~『武器としての組織心理学』と概論
なぜ組織に「心理学」が必要か?多様化と個の時代の処方箋
山浦一保
プロジェクトマネジメントの基本(1)国際標準とプロジェクトの定義
プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性
大塚有希子
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(1)史実としての豊臣兄弟と秀長の役割
豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割
黒田基樹
渡部昇一の「わが体験的キリスト教論」(1)古き良きキリスト教社会
古き良きヨーロッパのキリスト教社会が克明にわかる名著
渡部玄一