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研究・事業戦略に応用できる「計量書誌学」とは

科学技術とイノベーションマネジメント(3)計量書誌学

梶川裕矢
東京工業大学 環境・社会理工学院教授
情報・テキスト
複雑化した現代社会においては、科学技術の全体像と方向性を網羅的に分析する必要がある。東京工業大学環境・社会理工学院教授の梶川裕矢氏は、そのための方法として、数10万もの研究論文を一挙に分析し、イノベーションにつながる研究や技術を明らかにする計量書誌学の有効性を主張する。(全7話中第3話)
時間:07:24
収録日:2018/06/18
追加日:2018/10/12
カテゴリー:
≪全文≫

●現代の科学技術を理解するための「計量書誌学」


 複雑化する社会や科学技術の下では、従来の科学技術ではないメタな科学技術が必要です。サイエンスに加えて、サイエンスオブサイエンスやイノベーションサイエンス、従来のディシプリン(分野)に立脚した研究だけではなく、分野と分野の間を融合したり(インターディシプリン、トランスディシプリン)、科学技術と社会および産業の接点となる学問をどのように作っていけば良いのかという問題もあります。現在ではこうしたことが、非常に重要なテーマになっているのです。

 これらを考えるための方法論として、経営学や組織論、データ分析などが考えられます。今回はその中でも、「計量書誌学」という学問についてお話しします。


●計量書誌学は、研究事業戦略に応用できる


 計量書誌学とは、論文の書誌情報や特許、最近であればSNSやウェブサイトなど、何らかの言語で書かれたものやそれに付随するデータを定量的に扱う学問分野です。

 この計量書誌分析は何に応用できるのでしょうか。現在、各企業で用いられ始めているものは、研究・事業戦略です。さまざまな論文や特許などのデータに基づき、戦略を練るというもので、いろいろなことが可能となります。

 中でも、インスティトゥーショナルリサーチ(Institutional Research、制度的調査)やインベスターリレーションズ(Investor Relations、投資家向け広報)ですが、データの分析結果を、組織の管理や運営、内部の施策改善、ベンチマーキングの実施、企業や大学のプロモーション、投資家に対する説明責任のために用います。これは、データドリヴン(Data-driven、データ駆動型)とエビデンスベースト(Evidence-based、科学的根拠に基づいて)という二つのデータ分析の方針のうち、後者に近いものです。

 データとエビデンスは、しばしば同じ意味で用いられますが、あえて2つを区別すると、エビデンスベーストとは、あらかじめ主張したい何かがあり、その裏付けとなるデータを作るものです。それに対して、データドリヴンとは、エビデンスベーストと異なり、あらかじめ主張したいものはなく、データを虚心坦懐に眺めて分析し、その中から浮かび上がってくるものを捉えようとする手法です。

 スライドの1点目のIR(Investor Relations)の場合、しばしばエビデンスベーストにデータが使われるかもしれませんが、2点目の、何らかの研究や事業のトレンドおよび機会についてのアセスメント(Assessment、評価)の際には、むしろデータドリヴンなアプローチが求められています。学術技術分野の全体像を把握したり、さまざまな萌芽領域の中からどれが社会や自分たちの事業に活用できるのかを評価したりする際に、計量書誌学が応用されます。

 評価という日本語には、英語ではおおむね3つの意味があります。1つ目がアセスメント(Assessment)です。これは、「環境アセスメント」を思い浮かべていただければと思うのですが、「現状を記述する」「現状を捉える」という意味合いがあります。

 2つ目は、エヴァリュエーション(Evaluation)です。これは、アセスメントから一歩先に進んだ、フィードバックを伴う評価のことです。例えば、人事考課や、国がそれぞれの大学の研究力を評価して予算配分を見直す一連の行為が、エヴァリュエーションと呼ばれます。

 3つ目は、ヴァリュエーション(Valuation)で、これは価値評価のことです。お金に換算すると幾らになるか、ということを意味します。こういった最後の意味での評価に関する研究も多々、行われています。例えば、スライドの4点目にある特許ポートフォリオや特許の価値評価などはこれに当たります。以上のようなアセスメント、エヴァリュエーション、ヴァリュエーションに基づき、スライドの3点目に当たる戦略的や研究企画や事業企画を打っていきます。こうした一連の流れの中で、論文や特許、産業動向などが計量書誌学によるデータ分析として用いられます。


●研究開発動向を把握し、有望な新アイデアの発見を手助けする


 今回はこの中から、研究開発動向のトレンドや機械のアセスメントを可能にする計量書誌学について説明します。分析例として特に3点を紹介します。

 1点目は、研究開発動向の把握と萌芽的研究領域の抽出です。数万から数10万という論文を集めてきて、これらが全体としてはどうなっているのか、現在どの領域が伸びているのかなどを、データを基に記述するものです。

 2点目は、複数研究領域の関連性分析による革新的研究開発課題の設計です。1点目は、「世の中こうだよ」ということを観察し記述するものでした。それに対して...
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