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イノベーションを「やり遂げる」には何が必要か?

科学技術とイノベーションマネジメント(6)組織設計

梶川裕矢
東京工業大学 環境・社会理工学院教授
情報・テキスト
東京工業大学環境・社会理工学院教授の梶川裕矢氏によれば、イノベーションを起こすためには科学技術だけでなく、その前提となる社会的環境も同時に考えなければならない。そのために求められる組織設計の要諦とはいかなるものなのか。(全7話中第6話)
時間:09:54
収録日:2018/06/18
追加日:2018/10/23
カテゴリー:
≪全文≫

●イノベーションは科学技術に限ったものではない


 ここまで、イノベーションというテーマで、科学技術に特化したお話をしてきました。しかしイノベーションは、科学技術のみで起きるものではありません。このスライドは、フランク・ジール氏という研究者が15年以上前に、イノベーションの普及に関する先行研究を網羅的に分析して、1枚の図にまとめたものです。

 ジール氏によると、イノベーションは3つの段階に分けることができます。1つ目はテクノロジカルニッチ(Technological niches、技術的間隙)です。この段階では、さまざまな技術、製品、サービスがお互いに競争し合っています。その中で、あるときに1つの技術や製品がメインストリームとなって世の中に出ていきます。

 それでは、どういった技術がメインストリームになっていくのでしょうか。それを決めるのが第2段階の「社会-技術的なレジーム(Socio-technical regimes)」です。このレジームは技術そのものだけでなく、マーケットやユーザーのコミュニティー、インフラや産業政策、関連する科学技術的な知識や、技術がもつ文化的・象徴的な意味、産業構想や各社の戦略などが含まれ、これらによって規定されていきます。

 3つ目は、こうした社会-技術的なレジームが決まる段階です(ランドスケープディベロップメント(Landscape development、ランドスケープ発展)。例えば少子高齢化やSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)、福島の事故など、大きなランドスケープの転換によって、レジームが影響を受けます。また、技術的なニッチがメインストリームとして世の中に出ていくと、これによってレジーム自体が撹乱され、また新たなレジームが生じることもあります。

 こういったレジームによって、あるものは失敗し、あるものは、一時は失敗したかのように見えても、時流を得れば、また再び世の中に出ていくことになります。こうしたイノベーションの普及プロセスを観察者の立場として見てみるとどうなるでしょうか。まずはレジームにあるそれぞれの要素から世の中の動向を、よく分析します。そしてモニタリングしながら、チャンスが来たら大きく投資をすることになります。

 一方、設計者や実施者の立場に立つとどうでしょうか。その場合、単に技術開発を進めていくだけではなく、これが世の中に出ていくための政策やインフラを、コンカレント(同時並行的)に設計することが必要になるでしょう。


●イノベーションを「なんとかしてやり遂げる」ためには


 先ほど私は、イノベーションを「何か新しいことで価値をつくる」ことだと定義しました。ここで重要になるのは、イノベーションマネジメントです。マネジメントは「経営」や「管理」と訳されることが多いのですが、それでは本質を逃します。実際にはマネジメントは、「manage to」という動詞の名詞系で、「何とかしてやり遂げる」という意味です。そのためイノベーションマネジメントとは、「何か新しいことで価値をつくる」ということを、何としてでもやり遂げるということです。

 そのためには何が必要になるのでしょうか。当然のことながら、先ほどのレジームにあったような技術産業社会をよく観察し(観察)、過去から現在に向かって何が起きていたのか、そしてこの先どうなるのかを分析する必要があります(分析)。そして、その観察結果や分析結果に立脚して、現在のトレンドだけでなく、他のあり得るシナリオを考慮して必要なシステムを構想し、そのシステムの中で自分自身がどのような製品やサービスを世の中に提供していくのかを考えていくことが重要です。

 こうした構想の元で、必要な技術や研究開発課題を設計していきます(設計)。次に、こうした構想を実施し、実現するための研究開発戦略、事業戦略、ビジネスモデル、サプライチェーン、ステークホルダーとの関係を含むビジネスエコシステム、政策や制度の戦略を立案します(戦略立案)。さらに、技術的な実現可能性だけではなく、現在の複雑な産業構造や技術システムの中での実装可能性を検討します。当然のことながら、事業としての収益性だけでなく、広く経済、社会、環境に対して、どのような影響があるのかについて戦略を評価し、それを踏まえた意思決定を行う必要もあります(戦略評価・意思決定)。

 従来は個人の経験、勘、度胸に加え、組織の中での印象や政治的調整に基づいて意思決定が行われてきました。データ分析はこの中で、事実やデータに基づいた戦略立案および戦略評価を行うことができます。しかし同時に重要になるのが、これを可能にする組織の設計です。


●データ分析を活かせる組織設計をいかに行うか


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