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論文の数に見る日本の研究開発の国際的な遅れ

科学技術とイノベーションマネジメント(4)研究開発動向

梶川裕矢
東京工業大学 環境・社会理工学院教授
情報・テキスト
東京工業大学環境・社会理工学院教授の梶川裕矢氏が、イノベーションを生み出すためのデータ分析手法である「計量書誌学」の活用例を解説する。このデータ分析によって、世界中で行われている科学技術の開発動向や、今後重要な技術に結び付いていく研究を発見する手がかりが得られるという。(全7話中第4話)
時間:09:57
収録日:2018/06/18
追加日:2018/10/21
カテゴリー:
≪全文≫

●引用ネットワーク分析により、研究分野の全体像を把握できる


 1点目の研究開発動向の把握から、順番に説明します。ここで主に用いる手法は引用ネットワーク分析です。この図の場合、丸が個々の論文や特許を表し、矢印が引用関係を示しています。この論文や特許の持つ引用関係を線でつなぎ、同じような引用関係を持つ論文や特許群をクラスタリングという方法で1つにまとめます。

そして同じクラスタに属する引用関係に同じ色を付けて描画すると、引用関係が可視化され、研究分野の全体像の見取り図を作ることができます。


●自身の方向性にとらわれず、虚心坦懐にデータを見よ


 少し古い例ですが、これは2010年から2014年までの5年間における、世界のコンピューターサイエンスのトップ10パーセント論文を示したものです。「トップ10パーセント」とは、論文が何回他の研究者に引用されたかについての上位10パーセントです。全体で約24万論文あり、中にはコンピューターサイエンスのメインストリームとはつながっていない研究もありますので、それらを除外して分析を行いました。

 このオレンジや黄色、青などカラフルな模様からなる絵を見ると、色分けされたテーマごとに、コンピューターサイエンスといってもさまざまな領域があることが分かります。例えば、オレンジは、IoTやワイヤレスネットワークを意味しており、アンテナ(antenna)やネットワーク(network)、スマートグリッド(smart grid)がキーワードになっています。主な研究をしている国は、アメリカや中国、カナダです。

 2番目に大きな領域は、青の部分のアナリティクス(Analytics)で、人工知能の研究です。3番目はクラウド・コンピューティング(Cloud Computing)で、それ以下では可視化(Visualization)やイメージング(Imaging)、モバイル(Mobile)、データマイニング(Data Mining)など、さまざまなテーマで展開されています。

 この分析は、現在では非常に短時間で行うことができます。そのため、コンピューターサイエンスについて全く何も知らない状態であっても、極めて効率的に分野の全体像を理解できます。

 これは、自分たちが研究開発を進めていく際のエビデンスとして活用することができます。例えば、ある会社がこれからAIやIoTを進めていくことをあらかじめ決めていた際に、この分析によって世界のトレンドを確認し、やはりこの方向で間違いないということに確証を得ることができます。

 ただ考えてみると、世界のトレンドを確認してその方向に進もうとするのは、常に後追いとなってしまう点で、おかしな手順です。エビデンスは、ややもすると誤った方向に使われてしまいます。そのため、時にはエビデンスに基づいて、逆張りの別戦略が必要かもしれません。つまり、データ分析の結果は使い方一つで、役に立ったり立たなかったりするものなのです。あらかじめ進めたい方向性があったとしても、まず一度それをかっこに入れて、虚心坦懐にデータを見てみることが重要です。


●AI開発の推進では、日本が国際的に遅れをとっている


 現在、各国でもAIの推進が非常に重要なテーマになっています。国別に論文の数を見ると、1番目がアメリカで、約8万論文のうち2万本が書かれています。中国が2番目で1万7000本で、この2国が世界のツートップです。これにドイツ、イギリス、カナダが続き、日本は12番目で、日本の論文数は台湾や韓国の半分です。こうしたデータからは、日本がどのような位置付けで戦略的に研究開発をしていくべきかについて、示唆が得られます。現状ではなかなか難しい状況です。

 また他にも、2010年から14年という、今から5~10年前の論文で分析してみてもGPU(グラフィックスプロセッシングユニット、Graphics Processing Unit)が8番目に来ているということが注目に値します。

 現在、ディープラーニング(深層学習)を開発していく上で、GPUのような一度にパラレルに分析できるデバイスは、処理速度が非常に速く有用であることが知られています。今ではインテルと並んでエヌビディアNVIDIAもディープラーニングのためのGPUを開発しており、非常に注目されています。10年前のデータを使っても、「おそらく今後GPUというのが重要になる」ということが、こうした分析から分かるということなのです。


●アメリカは今後再び重要となるソフトウェア工学に力を入れている


 また、これは私自身も分析して初めて知ったため少々びっくりしたのですが、7番目にソフトウェアエンジニアリング(Software Engineering)が来ていることに着目したいと思います。コンピューターサイエンスの最先端のうち、非常に頻繁に引用されている学術的にインパク...
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