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ディープラーニングのサービス化は企業文化との闘い

AIで社会・ビジネスはどう変わる?(4) 学習工場を造る

松尾豊
東京大学大学院工学系研究科 人工物工学研究センター 技術経営戦略学専攻 教授
情報・テキスト
今こそ日本の製造業は明確な計画を持ち、AIの未来に先行投資すべきだと、東京大学大学院特任准教授・松尾豊氏は語る。ものづくりの技術が高い日本は、この分野の発展に有利な条件にある。そこで求められるのが、ディープラーニングに精通した若手の登用と、従来の企業文化を変えていく意識だ。そのために必要なのは「学習工場」だという。(2016年11月30日開催三菱総研フォーラム2016講演「AIで社会・ビジネスはどう変わるか?」より、全4話中第4話)
時間:08:08
収録日:2016/11/30
追加日:2017/03/02
≪全文≫

●日本は「ものづくり」とAIをつなぐべきである


 私は、日本なりのやり方で(世界と)勝負しないといけないと思っています。ディープラーニングの技術は、今はアメリカやカナダなどが先行していますが、おそらくコモディティ化するでしょう。そうなると勝負のポイントは、データとハードウェアになります。結局、ハードウェアとの擦り合わせの技術が重要になってきますから、早くそこに持っていけば、日本の企業の強みが出てくるはずだと思います。

 欧米のスタートアップや、ディープラーニングの研究者は、意外なほどハードウェアとロボット・機械に対する抵抗感があります。彼らはこのロボットや機械との新たな関わりを、自分とは全く違う世界の話だと思っています。あるいは文化的に、ロボットをあまり使いたくないと思っているところがあります。だから日本は相当有利な立場にある、と私は思います。

 逆にいうと、物が関連しないようなプラットフォームビジネスを日本でやるのは、無理です。検索エンジンにしてもeコマースにしても、これらは絶対に英語圏でやった方が良い。人口も多いですし、この分野では勝てないと思います。

 したがって、ものづくりを起点にして、「目」のある機械をつくり、そこからいかにサービス化・プラットフォーム化を進めていくか。私は、これが日本なりの闘い方ではないかと思っています。

 農業、建設、食品加工以外にも、たくさんの産業で影響があり、先に述べた「カンブリア爆発」に匹敵する現象が、およそありとあらゆる産業で起こるはずです。医療や介護、製造、廃炉など、どれ一つとっても非常に大きな産業ですが、こういう中で機械・ロボットが「目」を持つことで、新たなイノベーションが生まれてくるはずだと思います。

 ただし海外の企業は、やはり動きが早い。規模は少し小さいですが、ベンチャー企業で医療画像の分析をしたり、農業で顔の表情を読み取ったりしようとしています。さらに、ドラッグディスカバリー、衛星画像、ホームセキュリティなどといったスタートアップがどんどん出てきますし、もう数十億円規模での調達がなされています。ごみの選別ロボットを進めるフィンランドの会社もあります。

 さらに製造業でも、GEがディープラーニングによる医療画像の診断をしたり、ダイソンは掃除機に「目」を付けようとしたりと、いろいろな企業がすでにやろうとしているところですので、かなり急がないといけません。イノベーションのスピードに関して、日本はかなり頑張らないといけないと思っています。


●AI導入は、企業文化との戦いでもある


 私は、ディープラーニングの話を考える上で、よく企業の方から相談されます。ディープラーニングによって、「売り上げが5~10パーセント増えるかもしれない」、あるいは「コストが5~10パーセント減るかもしれない」という話があります。それでも(企業にとっては)大きいことですが、そういうことよりももっと「売り上げがもしかしたら5倍や10倍にもなるかもしれない」ということを考えないといけない、と私は言っています。ディープラーニングはそのほど大きな変革をもたらすものであり、機械が認識できるようになることは、今までの大前提を覆すことだと思っています。

 先ほどお話ししたように、「目」を持つ機械を投入して、そこからサービス化・プラットフォーム化を展開する場合、かなり先まで読んで動く必要があります。そのためには、きちんとした事業計画を立て、それを前倒しして投資するということだと思います。

 いろいろな企業とのお話を通じてだんだん分かってきたのは、この話は、実際には企業文化との闘いでもあるということです。ディープラーニング技術については、20代の方が強い。2012年から非常に伸びてきた技術なので、現時点でこの技術に詳しい最強の人が、28~29歳ぐらいです。「ディープラーニングでPh.D.(博士号)取り立て」ぐらいの人が、世界最強なのです。

 そうすると、それよりも以前の人は、ディープラーニング以前の技術を習得してしまっていますから、この技術にはあまり関係がありません。そのため非常に大きな組織、例えば100~200人いる組織でも、「ディープラーニングをやっている人」と聞くと、手を挙げるのは、端っこに座っている3人ほどの一番若い人たちです。本当は、その端っこの3人を一番トップに上げないといけないのですが、日本の企業は年功序列ですから、そういうことがなかなかやり切れません。しかし、ディープラーニングの技術を習得した若い人材こそが、新しい競争力を持つということをトップがディシジョン(決定)して、大きく変えていけるかどうかが、本当なら一番重要なところです。これは技術の話のように見えますが、実際には経営の話が、相当大きなウエートを占めていると思っていま...
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