●AI技術の核心はディープラーニングにある
「AIで社会・ビジネスはどう変わる?」というタイトルでお話させていただきます。自己紹介は画面に表示した通りです。日本に人工知能学会があり、私はその学会誌の編集委員長を2年ほど担当し、今は倫理委員会の委員長をやっています。今日は、ディープラーニングを中心にお話しします。
2016年3月に、グーグルが開発したAlphaGoというソフトがイ・セドル9段を破ったというニュースがありました。まだご記憶に新しいところかと思います。さらに先週(2016年11月)は、日本のDeepZenGoというソフトが、趙治勲名誉9段と対局しました。結果的にコンピュータが1勝2敗で負けてしまいましたが、実はこのプロジェクトは、技術的なバックのサポートを松尾研究室でやっています。オールジャパンで、打倒AlphaGoをやるというプロジェクトです。2017年には日中韓の三カ国で、プロ棋士と人工知能による対局があり、この分野もかなり盛り上がってきているかなと思います。
いずれにせよ、このAlphaGoがイ・セドル9段を破ったのは、相当すごい出来事でした。なぜここまで強くなったのか。それは、ディープラーニングという技術を使ったからだということになります。
ご存じの通り、今は人工知能がブームになっていますが、この分野は60年前からあるもので、今回のブームが3回目ということになります。この60年間に、いろいろな技術が出てきていますが、もう60年間も研究しているので、できることはできるし、できないことはできないということに関して基本的な理解があります。こうした理解はそれほどすぐに変わることがありませんので、「こんなことができるのではないか」というアイデアがあっても、それ一つでそんなに簡単にいくわけではありません。
そのため、現在はとてもブームになっていますが、もともとこの分野は非常にブームになりやすい性質を持っています。やはり「人工知能」という言葉がすごく想像をかき立ててしまうからです。そのため、実はもう1960年代の第一次AIブームの頃から、「人間のような知能ができるのではないか」「いずれ人間を超えるようなことがどんどんできてしまうのではないか」と思われてきました。同じことが、今回の第三次AIブームでも起こっているということです。
全体的には、それほど期待しない方がいいと思っています。期待感が大きくなり過ぎると、どうしてもその後の失望が大きくなります。そうなると、冬の時代が来ることになりますから、(今の時点で)できること・できないことをきちんと見極めて使っていくことが大切です。今までのAIの歴史を通じて、「できなかったこと」が「できるようになったこと」は、もうほとんどないということです。
●「~っぽさ」をコンピュータが理解する
ただ、今からお話しするディープラーニングについてだけは、私は別格だと思っています。ここは相当、ディスラプティブに(前例を壊していくように)イノベーションが起こっている分野です。私は、このディープラーニングとそれ以外を完全に分けて考えています。ディープラーニングだけは、非常に大きなイノベーションが起こっているからです。
ではディープラーニングで何ができるようになってきたか。大ざっぱに言えば、「認識」「運動の習熟」、「言葉の意味理解」です。「認識」では、画像認識ができるようになってきています。「運動の習熟」では、ロボットや機械に熟練した動作が可能になってきたということです。「言葉の意味理解」では、コンピュータにとって言葉の意味が分かるようになってきているということです。こういう三つの変化が起こってきていると考えていただければいいかと思います。
順番に説明していきます。まず認識です。猫・犬・狼が写った3枚の写真があります。人が見ると、ぱっと見て、これは猫だ、犬だ、狼だと分かりますが、これをコンピュータに認識させるのは非常に難しい。なぜか。そもそも「認識」とは、どういう風にしているかで考えると、例えば猫を観察して、「猫は目が丸い」、だから「目が丸ければ猫だ」と判定するとします。あるいは、「犬は目が細長い」ので、「目が細長ければ犬だ」と判定します。そして狼との違いを考えると、「目が細長くて耳が垂れていると犬」で、「耳がとがっていると狼」と判定すると、一見うまく分けられるように思うのです。
ところが、「目が細長くて耳がとがっている」けれども、これは狼ではなく犬なのですね。つまり、シベリアンハスキーのような犬がいるわけです。確かに言われてみると、右下のシベリアンハスキーは犬っぽい顔をしていて、右上の狼は狼っぽい顔しています。人間が見ると、「なんか犬っぽいな」とか「狼っぽいな」ということが分かるのですが、ではこの「犬っぽさ」「狼っぽさ」を定義し...