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イノベーションにとって重要な学問とは何か?

科学技術とイノベーションマネジメント(7)実現に向けて

梶川裕矢
東京大学 未来ビジョン研究センター 教授/東京科学大学環境・社会理工学院 特定教授
概要・テキスト
今日、イノベーションの生成プロセス自体が多様化している。東京工業大学環境・社会理工学院教授の梶川裕矢氏によれば、こうした多様化を理解し、適した研究開発と事業展開を行っていくためには、幅広い学術分野の知見を参照した上で、産官学が協働していなければならないという。(全7話中第7話)
時間:10:20
収録日:2018/06/18
追加日:2018/10/24
カテゴリー:
≪全文≫

●イノベーションの起こし方は多様化している


 今日、ここまで検討した戦略を策定するための知的情報基盤やデータ、ツール、人材を整備することが必須になってきています。従来のように、研究者や技術者が、自分たちの発想に基づいて分野を深く掘り下げ、それによって生じる発見や発明によって一直線に何らかのイノベーションにつなげていく発想は、もはや困難になってきています。当然ながら現在でも、新しいものを生み出すという従来の活動は必要です。

 しかし、それに加えて、次のことが必要になっていると考えられます。一つ目は、個々の技術を統合し、現時点で何が明らかになっているのかを分析し、何が明らかになっていないのか、今後は何を行っていく必要があるのかについて、知を構造化していくこと。二つ目は、構造化された知に立脚し、技術や製品、サービス、必要な制度を明らかにすること。三つ目は、こうしたことが世の中にとって、どのような意味があるのかについて分析し、多様なステークホルダーの行動を導いていくようなシステムを設計し行動を構造化していくこと。つまり、これまでとは逆向きの矢印が重要なのです。

 イノベーションの起こし方も、多様化しています。イノベーションの対象自体が、ハードウエアからソフトウエアに変化していっていますが、イノベーションプロセスやイノベーションモデル自体が多様化しているのです。

 従来のような、革新的なアイデアを基に研究をして知識や技術を作り、開発を行ってプロトタイプを製作し、それを実証して製品やサービスに繋げ、事業化していくというリニアなLinear(単線的な)イノベーションだけではありません。知識や技術が不十分であっても、アイデアがあれば、そこからモックアップ(模型)やプロトタイプを作成して、ユーザーに問い掛け、そのスピードを上げていくことによって、ユーザーベースを獲得していくような、ユーザードリヴン(User-driven、ユーザー主導型)なイノベーションも増えています。製品自体ではなく、いかに多数のユーザーを作るかということが、その事業の持つ価値であるという発想です。

 それに加えて、ユーザードリヴンモデルが重要視する製品やサービス、ユーザーなどの視点の前提となる、政策や制度、ランドスケープや...
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