●「日本資本主義の父」と言われる理由
── 皆さま、こんにちは。本日は、童門冬二先生に「近代日本をつくった男、渋沢栄一」というテーマで講義をいただきます。先生、どうぞよろしくお願いいたします。
童門 お願いいたします。
── 渋沢栄一が、2024年から1万円札になると決まりました。よく「日本資本主義の父」と言われますが、意外と「何をした人か分からない」という声も多いようです。ただ、1万円札になるぐらいですから、やはり日本にとって、特に日本の近代にとって、非常に重要な人物だったのだと思います。先生、まず一言で、渋沢栄一の日本近代における意義について、彼がいたことで何が日本は変わったのかという部分、どのようにお考えでしょうか。
童門 一つは、日本で最初の銀行、「国立第一銀行」をつくったことです。それは渋沢さんがパリで学んできた資本主義、あるいは株式、これを日本に導入した先覚者であるということですね。
また、徳川時代260年、300年近く主税(主な税)がお米でした。これは実物の納入だったわけです。ですから、納税者がみんな米俵を担いでいちいち持ってくるという大変なことをしていた。それを金納にしました。しかもそれを銀行が発行するお札によって納める制度にしたのです。これが大きいことですね。
それからもう一つは、資本主義というか、株式を活用した組織、会社ですね。こういう企業を500だか600だか起こしている。つぶれたものもあると思うんですけれども。政治制度や政府の組織は、明治維新によって近代化されます。それを日本の財政面において実行した人だということ。それが政府だけではなくて、やはり国民にも大きく影響を与えていた。そういう人だと思います。
ただ、この人には、精神というかな、スピリットがありましてね。有名なのは、銀行をつくった時の話です。「銀行というもの、ただお金を貸し借りするバランスシートのそろばん勘定だけでは駄目だ」という。「そろばん勘定ばかりしていると、いつか人間としていけないことをやるようになってしまう」と。それで、「人の道を守るためには、古代中国に孔子が書いた『論語』という素晴らしい本がある。これを、わが行員は一人残らず、暇があったら常に紐解いてもらいたい」と。そのことが世間に流れまして、「論語と算盤を一致させよ」という、そういう言い方をしたと広まったわけです。ざ...