●記述的観察・分析から、探索的設計へ
ここまで紹介した分析は、「世界の現状はこうです」という記述的なものです。計量書誌学の活用例として2つ目に紹介するのは、より探索的な設計です。まず、先のような記述的な分析を行った上で結果を可視化し、何か全く異なる別のものを持ってきます。そして、それらの間の潜在的な可能性をテキストマイニングによって分析していきます。
例えば、スライド中のXという分野にはたくさんの技術があり得ます。また横軸Yの分野を取ってみると、同じようにたくさんの技術があります。この両者を組み合わせることによって、何か革新的なアイデアができるのではないかと考えます。そのときに、どこを探索すれば良いのかを、データ分析を用いて支援する、というものです。これは「関連性分析」と呼ばれます。
●関連性分析は、技術同士の組み合わせアイデアの発見につながる
例えば、次のような分析があります。燃料電池とアンモニア合成の関連を考えて見ましょう。燃料電池を分析すると、「こういう触媒があります」という考察が出てきます。そしてこれを、アンモニア合成と組み合わせます。アンモニア合成では、「ハーバーボッシュ法」という高校の教科書にも載っている高温高圧のプロセスが、現在もなお産業上で用いられています。
しかしここで、そうした高温高圧のエネルギー多消費型のプロセスではなく、燃料電池で開発された触媒を使うと、常温常圧でアンモニアを合成できるのではないか、というアイデアが生まれます。関連性分析は、このようなアイデアの発見につながるということです。
他の事例としては、自転車と航空機の間での関連性分析があります。自動車の特許を一方の軸に持ってきます。そして分析を加えると、自動車がどのような技術で構成されているかが明らかになります。もう一方の軸に、航空機を持ってきます。この掛け算をすることによって、自動車で用いられている技術を航空機業界に横展開できるのではないかと考えることができます。また、航空機で開発されたコックピットシステムを自動運転におけるドライバーアシストに使えるのではないか、と考えることもできます。関連性分析はこのような知見につながるのです。
また、「化粧品×脳科学」という事例もあります。脳科学を分析すると、様々な知見が得られますが、それを化粧品に応用してみます。化粧品といえば、ブランド力やマーケティングなどが競争力の源泉として考えられています。しかし、そこで脳科学に立脚すると、新しい機能性化粧品の開発につながるのではないか、と考えることができます。
●「技術×技術」だけでなく「技術×社会」でも関連性分析は可能
こういった分析は、技術と技術の掛け算に限りません。例えば、「ロボット×高齢化社会」というものも考えることができます。高齢化社会で先ほどのような分析をすると、学術論文では高齢化社会の課題として以下の6つが研究されていることが分かります。1つ目が、身体的機能の低下です。2番目は、認知的機能の低下。3番目は精神的機能に関する問題です。4番目としては、公的なケアの問題があります。5番目は、ケアにおける家族の問題で、6番目が、高齢者の社会参加やバリアフリーな社会、および高齢者がどのように社会からの評価を獲得しながらアクティブに生きていくかということです。
ロボット研究も同様に、制御技術など、さまざまな分野に分けられるのですが、それらを組み合わせることによって、高齢化社会に資するロボット技術の抽出を行うことが可能になってきています。
●イノベーションとは「何か新しいことで価値を創造する」こと
「イノベーション」とは何かについて、学術的にも非常にさまざまな定義がありますが、私は「バリュークリエーションサムシングニュー(value creation something new) 」という定義をしています。「何か新しいことで価値を創造する」ということです。「何か新しいこと」には技術だけでなく、ビジネスモデルや組織、政策、制度も含まれるでしょう。また、ライフスタイルも含まれるかもしれません。そうした新しいもので価値を創るということです。
価値としては、冒頭で紹介したような経済的価値(GDP)だけではなく、社会的価値、公共的価値、文化的価値、環境にとっての価値、次世代にとっての価値、自分自身にとっての個人的な価値、精神的な満足など、さまざまな価値があると思います。イノベーションとイノベーションの収益化は異なります。イノベーションが起きても、その実利を取る際には、また別の議論が必要になります。ややもすると、まだ事業の成果を生んでいないのに、収益分配についての議論に走ってし...