●世代的な多様性が活気を生み出す
これは横浜国立大学だったと思いますが、AIクラブの学生が塾でプログラミングの教育をしています。小学校でプログラミング教育が必修化されるそうですが、習っていない先生は教えることができないでしょう。しかし、工学部がある大学にはロボットクラブとAIクラブがあり、そこの大学生はプログラミングについてよく知っているわけです。そこに退職したシニアに少し勉強してもらい加わっていただくと、この3世代が非常にうまくいくのです。
左下の写真はさらに多様性があります。これは夏に中学生を100人近く全国から集めて、未来のことを考えさせるという企画です。そこで安藤忠雄さんなどさまざまな人が講義をしますが、5泊6日の日程のうち最後はグループワークを行います。ここに中学生のチューターとして学生ボランティアを入れるのです。さらに、シニアのグループを入れるとシニアが活気づくのです。
やはり結局、国際的にも多様性というのは、それが儲かるかどうかといった効用の問題ではなく、それ自体が価値なのだというのが今の議論の流れなのです。私もそう思います。やはり多様だと活気づくのです。
●必要なのは人財とアクションとネットワーク
ですから、自由と多様性、そうした意味で、地球も人も社会も希望はあると思うのです。自然共生、資源自給、生涯自立、多様な選択肢、自由な参加、そういうプラチナ社会を目指します。必要なのは人財とアクションです。そしてそれをどうやってつなげるのかということです。
人財も徐々に出てきていますし、アクションも徐々に起こっていますが全然足りません。やるべきことはたくさんあるのです。ですから、さらに人財とアクションを増やし、しかも、それに関するネットワークを繋げていくということができるかどうかという問題だと思います。
そういう思いで、私は「プラチナ構想ネットワーク」というものをやっていて、そこに約160の自治体が入っています。日本の地方公共団体の数は約1,700ですからおよそ1割です。他には法人会員です。この方たちがお金を出して活動を支えてくれています。
では、今どのようなことが起きているのでしょうか。私は2009年に東京大学総長を退任してから3年目にプラチナ構想ネットワークをつくり、今では7年目になります。いろいろ種も出てきたので、この間をつなごうということで、新しい社会実装のためのプラチナ会員連携支援サイトというものをスタートします。これは今スタートするところなのです。
●ソーシャル・インパクト・ボンドで社会問題を解決する
例えば、ソーシャル・インパクト・ボンド(Social Impact Bond: SIB)はご存じでしょうか。今、実験が八王子市と神戸市で始まったところです、八王子市では大腸がん、神戸市では糖尿病から透析を対象にしています。ご存じのように、糖尿病だと年間20から30万円の薬代だけで済むのですが、透析になると、一人当たり600万円の費用がかかるのです。これが医療費の5パーセントですから、大変なことです。
今は、ある人が糖尿病で透析になりそうだ、といったことが分かるわけです。こういった人たちに生活指導などをして透析に行くのを防ぐということがもし全員できると、2兆円のコストが削減されます。これをNPOが行えば、国の財政が助かるわけです。
このようにして削減されたコストの一部を、例えば神戸市なら神戸市がNPOに支払う、つまりソーシャル・インパクトを評価してお金をあげるということです。ボンドは債権です。それがソーシャル・インパクト・ボンドという仕組みで、生活習慣病の改善などさまざまな問題への取り組みがあるのです。
イギリスでは再犯防止の取り組みがなされています。イギリスではとにかく犯罪が多くて、しかも牢獄を出た人がなかなか更生できないので、再犯するのです。それでいくらつくっても刑務所が足りません。そこで、刑務所にいる間に教育して、職業のあっせんをすると、再犯が急激に減るわけです。その減った分を認定して、刑務所をつくるお金が浮いた分をあげるといった、さまざまな形があります。
ですから、今日本で思いつく一番の対象は生活習慣病ですが、この他にもいろいろとあると思うので、このあっせんをやっていこうと思っています。
先ほどの保健指導に関しては、久山町(福岡県糟屋郡)という世界に冠たるコホート研究(疾病の要因と発症の関連を調べるための、観察的研究の手法の一つのこと)を、九州大学と町とが一緒にやっているモデルがあります。そのモデルを普及させれば、日本の生活習慣病は非常に減るという...