●サーキュラーエコノミーに活路を見いだした「ニッコー」
―― では、具体的にカーボンニュートラル経営がどういうものかということを聞いていきたいと思うのですが、最初に事例としてお聞きしたいのが、石川県のニッコーという会社です。
ちょうど『武器としてのカーボンニュートラル経営』(ビジネス社)という本が、企業のいろいろな事例紹介の本になっているということですね。
夫馬 そうですね。最初に『超入門カーボンニュートラル』(講談社+α新書)を書いた時には、どちらかというと大企業向けに書いているのですが、私も最近、全国の商工会議所であったり、青年会議所であったり、市役所から呼ばれたりして講演しますので、そちらの本のメインは中小企業向けになっていきます。
中堅・中小企業から、「どこから始めていいのかがなかなか分からない」とか、「本当にやっていけるかどうか分からない」という声をたくさん聞きましたので、先んじて動いている企業を中心に具体的に紹介する本を中堅・中小企業向けに書こうと思ったのが、この『武器としてのカーボンニュートラル経営』です。その中でニッコーさんも取り上げさせていただいているという状況ですね。
―― この本は、まさに先生が聞き手となって、経営者の方に鋭く突っ込んでいきます。詳しくは、ぜひこの本を読んでいただければと思うのですが、今回のシリーズではその中から3社ばかり挙げさせていただいて、ポイントをお聞きできればと思います。
さて、今おっしゃったニッコーさんですが、石川県の会社で、陶磁器やいわゆる住設ですね。お風呂に関連するものなどをお作りになっている会社ということですが、ここでカーボンニュートラル経営というのはどういう経緯だったのですか。
夫馬 中堅・中小企業といいながら、実はニッコーさんは上場企業です。今いろんな事業をされており、その中の一種の社業として古くからやっているものが陶磁器です。実際に、メインでつくってらっしゃるのがレストランとか家で使っているお皿で、あの白いお皿をメインで作っているわけです。この本の中でも直接お話をいただいていますが、日本の伝統工芸といわれてきたこの陶器の事業ですら、市場自体が今はもう9分の1にまで縮小してきているぐらい衰退してきているのです。
ニッコーさんとしてはこの事業が赤字の状況なので、立て直さなければいけない。そこで、未来に向けてどういう事業構造にしていくべきなのか、この時代に合わせて考えたとき、「サーキュラーエコノミー」という概念がヒントとなり、今大きな転換を迎えてきているという状況ですね。
―― 前回の講義でサーキュラーエコノミーの話が出ました。日本人はどちらかというと、リサイクルといっても、最後に燃料になるとか、別の形で使っていくとイメージしますが、「モノ自体をリサイクルする」とはどういうイメージなのですか。
夫馬 私も今回、初めていろいろと伺って、特に陶器というものは、あまり馴染みがない業種だったりするので勉強になったのですが、もともと陶器がどう処分されているか、想像したことはありますか。
―― いや、ないです。分からないですね。おそらく普通の人は、燃えないゴミとして出して終わりという形になってしまいますね。
夫馬 そうですよね。実際に、家庭から出るものは燃えないゴミとして捨てられていきますので、場合によっては、埋め立て処分場に運ばれて行き、埋め立てるというケースもあります。よく陶芸家さんがたくさんの失敗作を壊したりすることがありますが、そうしたものもそのまま山のように残っているケースがあります。日本でも、遺跡を発掘すると陶器が出てくるというぐらい、陶器はほとんど分解されないのです。なので、地中でも何千年、何万年と残っていくのが陶器なのですが、この「捨てる」という行為に活路を見いだしているのが、今、ニッコーさんがやられているサーキュラーエコノミーなのです。
●廃棄するお皿から肥料をつくる――技術者から出てきた面白い発想
夫馬 ニッコーさんの中で面白い事業として何が出てきているかというと、廃棄するお皿から肥料をつくる事業です。なかなか普通の方には思いつかないような発想をされています。実は最近、廃棄したお皿でつくった普通の肥料の販売を始めています。なので、今まではお金を払って産業廃棄物として引き取っていただいていたのですが、その廃棄するお皿にむしろ価値が付いて、商品として販売できるということです。これが一つ、新しい収益源として見つかってきたのがニッコーさんの事例ですね。
―― 肥料というのは本当にまったく想像がつかなかった話ですが、本に書いてある話からすると、陶磁器の素材がウシの骨...