新病態フレイルとサルコペニア
「フレイル」の意味と「サルコペニア」の診断基準
新病態フレイルとサルコペニア(1)概念と診断
健康と医療
大内尉義(国家公務員共済組合連合会虎の門病院 顧問/東京大学名誉教授/医学博士)
世界に先駆けて超高齢社会に突入している日本では、高齢者の健康は大きな問題である。虚弱や老衰は近年まで年齢のせいだから仕方ないと考えられてきたが、正しい介入を行えば健康状態へ戻ることが分かってきた。日本老年医学会では2014年、その予防・改善への取り組みとして「フレイル」という名を提唱した。国家公務員共済組合連合会虎の門病院院長の大内尉義氏がその経緯を中心に高齢者の健康問題について語る。(全3話中第1話)
時間:10分11秒
収録日:2018年2月7日
追加日:2018年7月2日
収録日:2018年2月7日
追加日:2018年7月2日
≪全文≫
●加齢であちこちが弱るフレイル、四肢が衰えるサルコペニア
虎の門病院の大内尉義です。今回は、高齢者の健康を障害する新しい病態である「フレイル」と「サルコペニア」について、3回に分けてお話をしたいと思います。
フレイルもサルコペニアも難しい言葉ですが、まずフレイルは日本語でいうと「虚弱」です。加齢とともにだんだんと体のあちこちが弱くなり、食も細くなってきて、寝たきりになってしまう状態を思い起こしていただけば、イメージが湧くかと思います。フレイルの中心的な病態は、加齢とともに四肢の筋肉が減ってきて、歩行が困難になってくることです。これをサルコペニアと呼びます。
お示ししているスライドは、日本人の寝たきりの原因をグラフにしたものです。一番多いのが脳血管障害(脳卒中)で3分の1を占めます。その次に来るのが虚弱(13.5パーセント)ということで、これが第2位の原因となりフレイルに該当します。3番目が転倒・骨折、4番目が認知症です。この四つの原因で7割ほど占めています。
寝たきりの原因を65歳から5歳刻みに見ていくと、脳卒中が寝たきりの原因になるのは、高齢者の中でも比較的若い年齢層です。75歳や80歳を越えると脳卒中はむしろ減ってきて、その代わりに増えるのが高齢による虚弱、認知症、骨折・転倒です。こういったことがフレイルの主な概念になります。
●「治る」病態としての「フレイル」を世に広める
それでは、なぜわれわれが虚弱という日本語をフレイルと呼ぶようになったかのいきさつを説明します。
高齢者は加齢とともにだんだんと足腰が弱くなり、食も細くなって、ついには寝たきりになってしまう過程が、フレイルの典型的なコースです。この状態は、日本語では「虚弱」「衰弱」あるいは「老衰」といった言葉で表現されてきました。
しかし、こういった病態は「年のせいだから仕方がない」「だれでもこういうコースをとる」ということではなく、予防もできるし、途中から運動や栄養など、さまざまな介入をすることによって、元の元気な状態に帰り得ることが分かってきました。
そういった認識がだんだん高まってくるとともに、ポジティブな面を持たない「虚弱」という言葉への疑問が出てきました。そして2014年5月、私が当時理...
●加齢であちこちが弱るフレイル、四肢が衰えるサルコペニア
虎の門病院の大内尉義です。今回は、高齢者の健康を障害する新しい病態である「フレイル」と「サルコペニア」について、3回に分けてお話をしたいと思います。
フレイルもサルコペニアも難しい言葉ですが、まずフレイルは日本語でいうと「虚弱」です。加齢とともにだんだんと体のあちこちが弱くなり、食も細くなってきて、寝たきりになってしまう状態を思い起こしていただけば、イメージが湧くかと思います。フレイルの中心的な病態は、加齢とともに四肢の筋肉が減ってきて、歩行が困難になってくることです。これをサルコペニアと呼びます。
お示ししているスライドは、日本人の寝たきりの原因をグラフにしたものです。一番多いのが脳血管障害(脳卒中)で3分の1を占めます。その次に来るのが虚弱(13.5パーセント)ということで、これが第2位の原因となりフレイルに該当します。3番目が転倒・骨折、4番目が認知症です。この四つの原因で7割ほど占めています。
寝たきりの原因を65歳から5歳刻みに見ていくと、脳卒中が寝たきりの原因になるのは、高齢者の中でも比較的若い年齢層です。75歳や80歳を越えると脳卒中はむしろ減ってきて、その代わりに増えるのが高齢による虚弱、認知症、骨折・転倒です。こういったことがフレイルの主な概念になります。
●「治る」病態としての「フレイル」を世に広める
それでは、なぜわれわれが虚弱という日本語をフレイルと呼ぶようになったかのいきさつを説明します。
高齢者は加齢とともにだんだんと足腰が弱くなり、食も細くなって、ついには寝たきりになってしまう過程が、フレイルの典型的なコースです。この状態は、日本語では「虚弱」「衰弱」あるいは「老衰」といった言葉で表現されてきました。
しかし、こういった病態は「年のせいだから仕方がない」「だれでもこういうコースをとる」ということではなく、予防もできるし、途中から運動や栄養など、さまざまな介入をすることによって、元の元気な状態に帰り得ることが分かってきました。
そういった認識がだんだん高まってくるとともに、ポジティブな面を持たない「虚弱」という言葉への疑問が出てきました。そして2014年5月、私が当時理...
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