“膝の痛みの名医”が語る
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
膝の痛みを緩和して予防する「運動療法」の方法
“膝の痛みの名医”が語る(2)世界が認めた運動療法
黒澤尚(社会医療法人社団順江会江東病院理事長/順天堂大学医学部名誉教授)
“膝の痛みの名医”と呼ばれる順天堂大学医学部整形外科学特任教授・黒澤尚氏が語る「膝」シリーズ第2回。「変形性膝関節症」の痛みが和らぎ、予防や身体機能向上にもよいとされる黒澤氏の「運動療法」とは一体どんなものなのか? 世界が認めた運動療法を明かす。(後編)
時間:10分05秒
収録日:2015年9月14日
追加日:2015年11月26日
≪全文≫

●痛みが和らぎ、予防・再発防止にも


 私の「運動療法」には、いくつか利点があります。私は「体操」と言っていますが、そのような膝の体操だけで本当に痛みが和らぐのかと、多くの人が疑問に思われます。しかし、実際、1990年代後半から2000年代になって、世界各国でこの運動療法のトライアルが無作為比較試験(RCT=randomized controlled trial)という形で研究され、全て合わせると100以上の研究結果が出ました。その結果、この運動療法は、抗炎症剤の飲み薬やヒアルロン酸の注射と同等以上の痛みを和らげる、あるいは、とる効果があるという結果が出ました。つまり、痛みがとれるわけです。これが一つ目の利点です。

 ですが、痛みをとるだけでは、前向きな結果ではなく、元に戻ったにすぎません。しかし、私は「体操」と呼んでいますが、やはりこれは広い意味での運動ですから、骨、筋肉、靭帯、軟骨といった運動器の特徴として、70歳、80歳の方であっても、運動訓練をすると、訓練の結果、徐々に強くなっていきます。早い話が、筋トレをすると筋肉が強くなるわけです。

 そうした運動器が、内臓である肝臓や腎臓や胃腸とは違って、運動刺激に応じて増殖していく、つまり強くなっていくということは、痛みがとれるだけでなく、続けるうちに、関節の周りの筋肉が強化されていきます。そうすると、上下の筋肉がしっかりしている人ほど、関節症の症状が少ない、あるいは、なりにくいことは以前から研究で分かっていますので、「予防効果がある」と言えるわけです。

 つまり、痛みがすぐにとれるという短期の利点と、続けてやっていくことで、進行が遅くなる、あるいは、再発しにくくなるという長期の利点、こうした二つの利点のある方法なのです。


●唯一の欠点は「医者がもうからない」こと


 ただし、この方法には欠点もあります。それは、医療機関側にとって、お金が入らないということです。わが国の医療機関が行う方法は、異常とも言っていいぐらいにヒアルロン酸注射をします。世界基準から言うと、ヒアルロン酸注射は、2008年のガイドラインでも、優先順位の非常に低い位置づけになっています。ガイドラインの位置づけの8番目か10番目に、「注射はもし必要ならやってもいいでしょう」というくらいなのですが、わが国では異常に多くこの注射がされて...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「健康と医療」でまず見るべき講義シリーズ
ウイルスの話~その本質と特性(1)生物なのか、そうではないのか
きわめて特異的な「ウイルスと宿主の関係」
長谷川眞理子
最新の腰痛医療(1)導入された二つの医療と慢性腰痛
高齢者だけじゃない! 若年層にも腰痛が増えている
菊地臣一
老いない骨のつくり方(1)高齢化と骨の病気
健康寿命に大きく影響する骨粗鬆症・歯周病・変形性関節症
鄭雄一
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――自分にあった「理想的睡眠」の見つけ方
西野精治
最強の臓器「皮膚」のふしぎと最新医療(1)かゆみのサイエンス
「かゆみ」の正体を科学する!最新研究で迫る皮膚の仕組み
椛島健治
認知症とは何か(1)疾患の種類と対応
多くの認知症の原因は「脳のゴミ」の蓄積
遠藤英俊

人気の講義ランキングTOP10
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境にどう対峙するか…西洋哲学×東洋哲学で問う知的ライブ
津崎良典
過激化した米国~MAGA内戦と民主党の逆襲(2)MAGAの矛盾と内戦の現状
MAGA内戦勃発…なぜトランプがMAGAの敵になってしまうのか
東秀敏
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(4)信長の直臣、秀吉の与力としての秀長
最初は信長の直臣として活躍――武闘派・秀長の前半生は?
黒田基樹
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦
平和の追求~哲学者たちの構想(5)カント『永遠平和のために』
カント『永遠平和のために』…国連やEUの起源とされる理由
川出良枝
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――自分にあった「理想的睡眠」の見つけ方
西野精治
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
第2次トランプ政権の危険性と本質(1)実は「経済重視」ではない?
ブレーキなき極右ポピュリズム…文化戦争を重視し経済軽視
柿埜真吾
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(2)プロテスタントと「予定説」
カトリックとプロテスタントの違いは?「救済予定説」とは?
橋爪大三郎
人の行動の「なぜ」を読み解く行動分析学(1)随伴性
「なぜ人は部屋を片付けられないか」を行動分析学で考える
島宗理