●新型コロナウイルスの脅威と3つの検査
東京理科大学工学部機械工学科の元祐昌廣と申します。ここでは「界面現象とマイクロ流体システム」という話をしたいと思います。
これまで、ナノテクノロジー、マルチスケール解析、そして界面活性などさまざまな話をしてきましたが、ここではエンジニアリングとしての生かし方である「マイクロ流体システム」という話をします。
これは世界地図です。
このように、2019年から現在にかけて世界は新型コロナウイルスの脅威にさらされています。これより以前にウイルスの脅威に世界がさらされたのは、ちょうど100年ほど前のスペイン風邪の時なので、まさに100年たって人間は新たな試練にさらされているわけです。このウイルスの驚異的な拡散に対して、100年前とは違って、現在われわれには情報、そして科学があり、新たな方法で立ち向かうことができます。
まず、われわれがウイルスに感染したかもしれない、ウイルスに感染しているのではないかという恐れを持ったときにどうすればいいのでしょうか。現在の日本では保健所に行って検査を受けます。ウイルス感染の検査は、PCR検査・抗原検査・抗体検査の大まかに3種類の検査が存在します。
この3種類はそれぞれ検査する対象が違っており、PCR検査はウイルスの中の遺伝子情報を増幅して検出します。上図のように、「サーマルサイクラー」という装置で熱の力を利用してウイルスを増殖させて、その増殖の伸長反応に伴う蛍光反応を利用して検出します。そのときに酵素と熱を使います。
抗原検査はウイルスを直接検出します。真ん中の図にあるのは、新型コロナウイルスの模式図で、ウイルスの表面のギザギザはたんぱく質です。このたんぱく質の一部の抗原を検出する、言い換えると、このたんぱく質の一部に特異的に結合するような抗体を入れておいて、それに結合するかどうかを見る、という検査です。そのため、これを検出するにはある程度の数のウイルスが必要になります。
抗体検査はある人の体内にウイルスが入って、それに闘ってできる抗体が体の中にできたかどうかを見るための検査です。上の2つは唾液やのどの粘膜を取っていますが、この検査は血液を採取します。それによって、ウイルス感染で形成されるたんぱく質を検出します。
この3つは種類が違いますが、物理的なスケールに照らし合わせてみると、非常に近いスケールの反応を扱っています。そこで、これらのDNAやたんぱく質、そしてその抗原や抗体とサイズに注目したいと思います。
●DNA~人間までの各スケール
これは長さ(スケール)を表したもので、縦軸が長さです。1番上は10の0乗で、これは1メートルスケールです。人間はだいたい1~2メートル程度なので、これが人間のスケールです。
その1つ下に下がると10のマイナス3乗で、ミリメートルのスケールです。これは1000分の1メートルに相当し、アリやミジンコ等の小さな生き物のスケールです。
その1つ下の10のマイナス6乗はマイクロメートルで、100万分の1のスケールです。これは、花粉や赤血球、細胞等のもう少し小さな微生物のスケールに相当します。
さらに小さなスケールは10のマイナス9乗で、ナノメートルです。これは1メートルの10億分の1に相当します。ウイルスの直径がだいたい100ナノメートル、その先端についているたんぱく質が10ナノメートル程度で、DNAの直径が約2ナノメートルです。このナノメートルのスケールにおいて、ウイルスやたんぱく質、DNAが存在します。
そして、その細胞の検出ということも含めると、われわれの健康を守るために、対象とするべきスケールは、このナノメートルからマイクロメートルのスケールです。ここにおける、さまざまなウイルスやたんぱく質等の結合の反応をよく見て制御していくことで、われわれの健康が守られます。
●微粒子検出プロセスの効率化
ここで、微粒子等の検出について考えます。これは抗原検査のキットの模式図で、ここでの検体は唾液等の液体です。これをキットに入れると、マーカーで標識されて、流れに沿って1番右の箇所で検出されます。検査キットではあるところに線が表れる、あるいは色が発色として表れると検出していることになりますが、ここでたんぱく質同士の反応、すなわち抗原抗体反応を検出します。これを効率よく確実に行うためには、検体の採取・分類、試薬等の混合作用...