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水滴にみる表面張力の分子起源とその制御について考える

教養としてのナノテクノロジー(9)水とナノテクノロジーの関係

由井宏治
東京理科大学理学部第一部化学科 教授
情報・テキスト
地球を地球たらしめるもの、それが「水」である。水は他の物質と比較してもその性質は特異だ。その理由は、水の熱的性質と強力な表面張力にある。前者はナノスケールで起こる「水素結合」、後者はナノスケールでの制御である「界面活性作用」をそれぞれキーにして、水とナノテクノロジーの関係を考察する。(全10話中第9話)
時間:09:26
収録日:2021/03/29
追加日:2021/09/16
≪全文≫

●水の存在による地球と月の違い


 皆さん、こんにちは。東京理科大学の由井宏治です。本日は「水滴にみる表面張力の分子起源とその制御のマルチスケールサイエンス&テクノロジー」のお話をしたいと思います。

 われわれ生命の住む水の惑星である地球は、青い海と白い雲に覆われています。その正体は、皆さんもご存じの通り「水」です。

 一方で、地球の傍らを回る月には海も雲も存在しません。ここでいきなりクイズですが、そのような月における昼と夜の面との温度差はどのくらいになるでしょうか。

 月の太陽からの距離は地球とほぼ同じにもかかわらず、昼と夜の温度差は約300度近くになるといわれています。

 一方の地球は、水、すなわち海流や大気による熱吸収・反射・循環などにより、平均気温は約15度に保たれ、昼夜・年間を問わず、極端な温度差の発生を防いでいます。


●水の面白さのキーは「水素結合」


 地球上において、液体として存在する「水」の面白さの1つとして、熱を加えて温めてもなかなか気化しないという性質があります。スライド内の表に、代表的な液体の沸点や気化熱を比較しています。水は同族の硫化水素に比べて圧倒的に沸点が高く、また気化させるのに、大変多くの熱量を必要としていることが分かります。このような液体の水における特徴的な熱的性質を決定づけるのがナノメートルスケールで働く力、すなわち「水素結合」です。

 それでは水素結合とは、どのような力なのでしょうか。水分子、すなわちH2Oは、電気的には全体として中性ですが、酸素原子が水素原子より電子を強く引き付けることや、酸素側に結合に関与できる電子のペアを2つ余裕に持っていることから、ナノメートルスケールで正電荷と負電荷に空間的な偏りが生じています。

 この空間的な電荷の偏りによって、1ナノメートルの約3分の1~4分の1の距離で、水素原子を介して水分子同士が引きつけ合っています。これが水素結合です。

 しかし実際には、このような静電的な引力だけでは、水のさまざまな物性をうまく説明できないことが分かっており、現在では、電子移動に伴う水素イオンの交換といった、よりミクロの世界を扱う量子力学を用いて記述できるような力も働いているといわれています。

 このような水素結合を引き離すのに必要なエネルギーは、原子・分子間に働く普遍的な引力であるファンデルワールス力に比べて数10倍ほど大きく、水素結合はナノメートルスケールで比較的安定な結合を生み出しているといえます。

 このようなナノスケールで働く力が水の性質を特徴づけ、マクロな世界におけるさまざまな現象を決定づけています。仮に水素結合の距離を30センチメートル定規まで伸ばすと、パチンコ玉が丁度、地球の大きさになります。このスケール差は、約10億倍に達します。


●水滴はなぜ丸いのか


 今度は空に浮かぶ雲を見てみましょう。雲は地球上で活動する生命を過酷な宇宙環境から守るブランケットのような役割を果たしています。そして、その正体は水滴の集まりです。

 それでは、雲粒・雨粒の大きさはどのくらいでしょうか。雲粒は半径約0.01ミリメートルで、水素結合距離の10万倍程度に満たない大きさで空に浮かんでいます。一方、雨粒になると、100万倍以上の大きさになり、重力の効果で地上に降ってきます。

 しかし、水滴はなぜ自然に丸くなろうとするのでしょうか。これは、雲の形成メカニズムだけでなく、生命の最小単位である細胞のミクロな構造と機能をも左右する表面張力で説明されます。

 水は、液体の中でも異常に大きな表面張力を持つことで有名ですが、その大きさの起源は何でしょうか。

 その起源は、3次元的につながっていこうとする水素結合にあります。自然界はエネルギー的に安定な水素結合を空間的にできるだけ多くつくろうとします。しかし、空気と接する表面では結合相手の水分子がおらず、エネルギー的に不利になります。そこで水は表面積を最小に、すなわち丸くなろうとするわけです。

 このような水が持つ大きな表面張力を利用して巧みに生き...
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