●水の存在による地球と月の違い
皆さん、こんにちは。東京理科大学の由井宏治です。本日は「水滴にみる表面張力の分子起源とその制御のマルチスケールサイエンス&テクノロジー」のお話をしたいと思います。
われわれ生命の住む水の惑星である地球は、青い海と白い雲に覆われています。その正体は、皆さんもご存じの通り「水」です。
一方で、地球の傍らを回る月には海も雲も存在しません。ここでいきなりクイズですが、そのような月における昼と夜の面との温度差はどのくらいになるでしょうか。
月の太陽からの距離は地球とほぼ同じにもかかわらず、昼と夜の温度差は約300度近くになるといわれています。
一方の地球は、水、すなわち海流や大気による熱吸収・反射・循環などにより、平均気温は約15度に保たれ、昼夜・年間を問わず、極端な温度差の発生を防いでいます。
●水の面白さのキーは「水素結合」
地球上において、液体として存在する「水」の面白さの1つとして、熱を加えて温めてもなかなか気化しないという性質があります。スライド内の表に、代表的な液体の沸点や気化熱を比較しています。水は同族の硫化水素に比べて圧倒的に沸点が高く、また気化させるのに、大変多くの熱量を必要としていることが分かります。このような液体の水における特徴的な熱的性質を決定づけるのがナノメートルスケールで働く力、すなわち「水素結合」です。
それでは水素結合とは、どのような力なのでしょうか。水分子、すなわちH2Oは、電気的には全体として中性ですが、酸素原子が水素原子より電子を強く引き付けることや、酸素側に結合に関与できる電子のペアを2つ余裕に持っていることから、ナノメートルスケールで正電荷と負電荷に空間的な偏りが生じています。
この空間的な電荷の偏りによって、1ナノメートルの約3分の1~4分の1の距離で、水素原子を介して水分子同士が引きつけ合っています。これが水素結合です。
しかし実際には、このような静電的な引力だけでは、水のさま...