●ナノテクノロジーに関する各講義のポイント
―― 今回の一連の講義ですが、詳しくはそれぞれの先生方の講義をお聞きいただくとして、ご覧いただく上でのポイントを一言でお話しいただければと思います。それでは、松本先生から順番にお話しいただいてもよいでしょうか。
松本 はい。いかにナノテクノロジーが、人類にとってパワフルなツールになったかということ。その次にお話しすることは、そのパワフルなツールをどう使いこなすのかということです。
ナノだからといって、小さいことだけ考えていれば良いというわけではありません。やはり身の丈に合ったデバイスのレベルまで持ち上げてくるときに、そこにどういう学理があるのか、どういうつながり方をしていれば良いのかということを考えるのが、まさに今回のテーマである「マルチスケールサイエンス&テクノロジー」です。それがどうつくりこまれているのか、システムとして受け入れられるような仕組みになっているのかということを、次の講義でお話ししています。
―― ありがとうございます。では、山本先生、お願いいたします。
山本 私は専門が物理学なので物理学の立場からいうと、いろいろな学問を見てきた中で、1を知って10の23乗というアボガドロ数の世界を知る学問はなかなかありません。これこそ人間の知の究極、今のところの究極の姿なのではないかと思っています。それを自分たちの生活と関連づけて、未来をつくっていこうとするナノテクノロジーについての今回の講義は、教養としても十分に見ごたえのある講義になっていると思います。コップ1杯の水で、この地球上の海全てを知るようなお話ですので、1つのドラマだと思って聞いていただければと思います。
―― ありがとうございます。では、由井先生、よろしくお願いいたします。
由井 はい。水というものを題材にお話しさせていただきましたが、目で見える現象が、本をただしていけば10億分の1メートルのナノスケールに端を発し、気がついてみれば地球規模でのスケールで熱的な性質などが作用しています。そうしたスケールを超えたつながりを実感していただけたらと思っています。
また、私は化学を中心に研究をしていますが、気がつけば物理の分野のことをやっていたり、本をただせば、私が専門にしている化学熱力学という学問は、いかに効率的に機械を動かすかという機械工学に端を発しています。やはり機械、物理、化学もだんだん境界がなくなってきていますので、その理解と、それをどのように人類の発展に応用していくか、環境の保全に応用していくか、そういったことの一助になればと思っています。
―― ありがとうございます。元祐先生、いかがでしょうか。
元祐 はい。健康長寿社会を迎えて久しいといわれていて、これからわれわれは年齢的にも健康のことをだんだん気にかけていくようになります。そのときに正しい知識を持って、自分の健康に向き合うというのは非常に大事です。
その際に、自分の健康を脅かす源があって、ナノスケールの物質に端を発することがかなり多いのです。空気中を飛んでいるPM2.5からコロナウイルスまで、全てナノスケールです。それが人体の細かい機能とどのように作用して、それがどうなっているかという知識は、私は非常に面白いと思っています。
そしてこれを利用することで、新しい検査の機械が生まれていくことになります。視聴している方にぜひメッセージとして伝えておきたいのは、健康に関しては、さまざまな胡散臭いニュースが流れます。これはやはり「テクノロジーって何だかよく分からないけど」という科学に対する知識の不足、あるいは知識からの演繹の不足によるものではないかと私は思っています。似非科学や似非商品に騙されないためにも、ある程度正しい知識をつけていくというのが非常に大事だと思います。先ほど挙がったいくつかの話も、1つのトピックにしかすぎませんが、これを入り口としてさまざまなものに興味を持っていただければと思っています。
●科学における教養の必要性と教養としての科学
―― ありがとうございます。一連のお話で、ナノテクノロジーの可能性だけではなく、一般人として、なぜこういう知識を持っているべきなのかということが分かりました。ナノテクノロジーに対するイメージが非常に広がりました。
最後になりますが、冒頭で松本先生がおっしゃった「これだけすごい技術を手に入れてしまったのだから教養が必要だ」ということについて、お伺いします。確かに技術は使いようによってはとんでもないことになりかねません。それを利用する際に求められることをお聞きしたいと思います。まずは松本先生、いかがでしょうか。
松本 まず、やはり科学や技術が、どういうインパクトを持つのかということを正しく理解するこ...