●航空機の墜落事故は非常に悲惨だ
東京大学大学院工学系研究科・航空宇宙工学専攻の鈴木真二です。今回は、航空機の安全性に関してお話したいと思います。
航空機は統計的には、非常に安全な乗り物です。アメリカのデータでは、1億人マイル(延べ移動距離:旅客の乗客×移動距離)当たりの死亡者は0.01人です。これは、列車やバスの5倍、自動車の7倍近くも安全な数値ということになります。ただし、墜落事故は非常に悲惨です。社会的にも経済的にも大きな影響を与えます。旅客機が1機墜落した場合、その経済損失は4.5億ドル、つまり500億円にもなると試算されているのです。
航空機が飛び始めつつあった1911年、『フライト』という航空雑誌の記事には、次のような記述が見られます。「友の不幸は人生最大の教訓」という言葉があるが、不幸にも航空においてこの言葉は事実である、と。当時は航空機事故が非常に多発していました。しかし人類は飛行を禁止するのではなく、事故の原因を究明し、対策を探る道を選んだのです。それほど飛行は人類にとって魅力的なものであったといえるでしょう。
●ライト兄弟は最初の航空機事故にも関与していた
航空機事故は、どのように定義されているでしょうか。国連の専門機関に、ICAO(国際民間航空機関)という組織があります。民間航空に関する国際的な取り決めを行う団体です。ICAOの定義によれば、航空事故とは、飛行する意図を持って人が航空機に乗り込んだときから降りるまでの間に、人の事故、死亡または航空機の実質的損害が発生することです。
1903年、人類で初めて飛行を行ったのはライト兄弟でした。彼らは、最初の航空機事故にも関与していました。1908年、ライト兄弟は航空機の売り込みのために、欧州とアメリカ国内で公開飛行を実演していました。多くの人の前で飛行機を飛ばしたわけです。兄のウィルバーがヨーロッパに出掛けている間、弟のオービルはアメリカに残って、バージニア州で陸軍の評価試験を行っていました。このとき墜落が起きたのです。隣に同乗していた陸軍中尉が最初の犠牲者となりました。
事故の原因はプロペラです。ライト兄弟の飛行機は大きなプロペラを2つ付けていました。プロペラはスプルース材を3枚接着してできたもので、飛行中にプロペラが破損し、墜落事故になってしまったのです。この事故をきっかけに、飛行機を操縦する者...