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航空機事故の最後の課題は、組織の信頼性と安全管理

航空機事故ゼロをめざして(6)組織管理の不徹底

鈴木真二
東京大学未来ビジョン研究センター特任教授/福島ロボットテストフィールド所長
情報・テキスト
JAL機から回収されたバッテリー
(2013年のボーイング787のバッテリー問題)
これまで、技術課題の克服や訓練方法、観測装置の改良によって、航空機事故への対策がなされてきた。残された大きな課題は、組織全体の信頼性・安全の管理であると、東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻教授の鈴木真二氏は指摘する。2013年のボーイング787のバッテリー問題の原因は何だったのか。(第6話)
≪全文≫

●安全性を高めるための自動化システムが事故をもたらす


 次に、高度な自動化がもたらす罠についてお話します。マイアミ空港付近での墜落事故では、パイロットが自動操縦に設定していたにもかかわらず、それが知らないうちに切れてしまったということがありました。これは飛行機の安全性を高めるために搭載されている自動化システムが、逆に事故をもたらすという皮肉な例です。

 同様な例は、さまざまな事故から見て取ることができます。その一例として1992年、フランスのエア・アンテール航空A320便の墜落事故を見てみましょう。1月20日、ストラスブール空港へ着陸中の機体が、15キロメートル手前の山中に墜落しました。夜間飛行であったため、山に近づいたことにパイロットが気付かなかったのです。しかし、実は飛行中に着陸滑走路の変更があり、自動操縦への入力を乗務員が途中で切り替えていました。

 正常であれば3.3度の降下角で滑走路に下りることができたはずでしたが、データ上は毎分3,300フィートの降下をしていたということが分かりました。自動操縦装置には、飛行機が降下する際の角度を指定する方法と、降下率を指定する方法の2つの方法があります。つまり、この事故では入力する方法を誤った可能性があるのです。


●コンピューターは指示された命令にしか従えない


 この機体には、上昇速度と経路角を切り替える制御盤が、操縦席の窓ガラスの下に設置されていました。中央のトグルスイッチを押せば、2つの指定方法が切り替わります。数値自体は一番右にあるダイヤルを回すと表れて、上昇速度または経路角が表示されます。しかし、どちらも2桁でしか表示されない設計になっており、そのために乗務員が設定を間違えたのではないかと疑われています。

 やはり自動操縦への指定方法とその表示方法に課題があったということで、その後は、沈下率が4桁で表示されるように設計が変更されました。自動化システムとはいえ、コンピューターは指示された命令にしか従えません。よって、間違った数値を指定すれば、間違った飛行が起きてしまうことになります。

 ただし、地表に近づいていることが事前に分かれば、事故を回避できたでしょう。当時のフランスでは、地表に接近したことを知らせる警報装置の設置が、まだ義務付けられていませんでした。現在の全ての旅客機には、地表に接近したことを知らせるGPWS(Ground Proximity Warning System)という対地接近警報装置が搭載されています。これは電波高度計によって地表からの距離を直接計測し、パイロットに指示を与える装置です。昼間であれば外を見ることによって地上からの高度を知ることができますが、夜間では分かりません。しかも、通常の航空機は気圧で高度を測っており、地面からの絶対高度を知ることは非常に難しいのです。このため、電波高度計が取り付けられ、地面に異常接近した際に警報が鳴るようになっています。

 また、乗員間のコミュニケーションも欠如していたのではないかという指摘もあります。これは先ほどお話ししたCRM(Cockpit Resource Management)というトレーニングを徹底することによって、対策できるでしょう。


●80年代以降、組織管理の不徹底による巨大事故も多発


 シリーズ前半の最後に、組織管理の課題にも触れておくべきでしょう。これまでシステムの信頼性やヒューマンファクター、ヒューマンエラーについて見てきましたが、システムが非常に複雑になってくると、組織に関わる人間の数も多くなっていきます。1980年代以降、組織管理の不徹底が引き起こした巨大事故も多発するようになりました。

 1984年、インド・ユニオンカーバイト社のケミカルプラントの事故は、世界最悪の化学プラント事故でした。1985年の日本航空123便の墜落事故は、単独航空機事故としては世界最悪の事故でした。そして翌年にはスペースシャトル、チャレンジャー号の打ち上げ失敗事故が起き、同年にはロシアのチェルノブイリ原発事故が発生しました。1988年には北海油田Piper Alphaの事故も起きています。このように、複雑化したシステムをどのように安全にオペレーションするのかということが、大きな課題になってきたわけです。

 最近では、2013年に発生したボーイング787のバッテリー問題も、組織管理の問題の一つといえるでしょう。リチウムイオンという新しいバッテリーを搭載するために、新しいシステムが開発されていましたが、最近の航空機はグローバルな環境において設計開発がなされています。アメリカ・ボーイング社の機体ではあっても、電気システムはフランス、バッテリーは日本で開発されるなど、さまざまな場所で作られた部品を組み合わせてシステムが構成されているのです。そこで、信頼性や安全性の管理に不手際があったのではないかと指摘されています...
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