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国際政治を理解するために知っておくべき「3つの危機」

戦争と平和の国際政治(3)3つの危機と「国家と社会の関係」

小原雅博
東京大学名誉教授
情報・テキスト
ロシアのウクライナ侵略や台湾危機などの国際的緊張だけでなく、感染症や気候変動といった人類規模の問題に直面している現代。かつてないほど「安全」というものの価値が高まる中、いかにして個人の「自由」を守っていくべきだろうか。安全と自由の間で揺れるわれわれに向けて、「国家と社会」をキーワードにその指針を示す。(全4話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:15:23
収録日:2022/12/01
追加日:2023/01/26
ジャンル:
タグ:
≪全文≫

●これから国際政治を学ぶうえで知っておくべき「3つの危機」


―― 先ほど申し上げたように、この本(『戦争と平和の国際政治』)の大きな特徴が、現実の問題と国際政治学をどうがっぷり四つに組ませて理解を深めていくのかというところだと思うのですが、先生がこの本をお書きになって、一番読者に伝えたかったことはどういうことになりますか。

小原 私はメッセージをいろいろなところに込めました。皆さんからすれば、答えが欲しいということかもしれませんが、国際政治というのは、みんなが納得するような答えはそうそうありません。普遍的な正義も普遍的な合理性もないわけです。したがって、私の答えもそんなに自信というものがあるというわけではないのですが、その答えに近づくためのヒント、あるいは座標軸のようなものを書いたつもりです。

 普通、『戦争と平和の国際政治』というタイトルからすると、地政学であるとか、あるいは権力政治であるとか、そうしたことがすぐ頭に浮かぶと思うのですが、私がむしろこの本で皆さんに伝えたい最大のメッセージとして、「3つの危機」の関係をまずは知っていただきたかったということがあるわけです。

 つまり『戦争と平和の国際政治』のタイトルからして、まずは「平和の危機」なのです。今ウクライナで起きていることや台湾海峡はどうなるのだ、北朝鮮の核開発はどうなるのだ、という平和の危機というものに、このあとの2つの危機が絡んできているというのが、これまでの危機とは違ってかなり深刻な危機だと私は認識しているわけです。

 (次に)「グローバルな人類の危機」ですが、これはもう待ったなしです。気候変動とか、コロナはまさに今、起こっていることです。こういった人類共通の危機に対応しようとすれば、世界は一致協力しないといけない。ところが、その協力というものが平和の危機によってできない状況があるわけです。

 ではバイデン大統領は習近平国家主席と右手で殴り合って左手で握手ができるのか、そんな芸当ができるのか、というのが今の米中関係なのです。バイデン氏はしょっちゅう、協力しないといけない分野はあるのだと言っているわけですが、本当にそれができるのかというと、習近平氏からすると、同じバスケットに入っており、そこはディール(取引)になるわけです。だから、彼からすると、「一つの中国原則」というものをちゃんとやってくれるのであればグローバルにも協力しましょう、という取引になってくるわけです。

 しかし、それがなかなか難しいとなってくると、人類の危機に対して、そう簡単には世界が一致して対応できないかもしれません。

 さらに深刻なのは、「国家の危機」が関わってくることです。国家の危機というのは、まさにアメリカの社会の分断であり、先ほどからずっと説明している中国権威主義の限界のような問題です。

 そういう意味でいうと、今、日本もものすごく国家の危機です。つまり今、大きな歴史の流れはどうなっているのかということが世界でいわれている一つのポイントなのですが、歴史の潮流がどのように流れているのかということを読み解くことが非常に大事だと思うのです。それが国際政治を勉強する一つの意味です。政治家のみならず、ビジネスをやる人もそうです。


●「安全」の価値が高まる中でいかに「自由」を考えるか


小原 それは私の認識からすると、今の世はある意味で「安全」というものがそれ以外の価値を圧倒するような形で、大きなテーマになってきているということです。今回のウクライナ戦争もまさにそうなのですが、コロナにしろ、気候変動にしろ、まさに(テーマは)安全です。そして、この安全というものの価値を優先すれば、それ以外の価値がどうしても後退してしまうわけです。

 例えばコロナ対策の時に、われわれ個人の自由なのか、あるいは経済の自由なのか、あるいはプライバシーなのか。社会の安全という面から国家がそうした自由やプライバシーに介入してでも皆さんの行動を制限して感染症の広がりを抑えるのかという、こうした選択のジレンマに直面したわけです。

 こういった安全というものがそれ以外の要素を圧倒するような、まさに戦争が起こったときに、自由なんていっていられないので、とにかくこの戦争に備えないといけない。カリフォルニア大学の学長をしている私の友人は「国家安全保障国家(National Security State)」という言葉を使っていますが、国家が国家安全保障というものを前面に出すような時代になってきたということだと思うのです。


●国力を高めるには市民社会の強化が不可欠


小原 日本でも今、防衛費をGDPの2パーセントにしようとか、あるいは敵基地攻撃(反撃...
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