国家の利益~国益の理論と歴史
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
次の動画も登録不要で無料視聴できます!
国益の歴史…ペロポネソス戦争の教訓とトゥキディデスの罠
第2話へ進む
激変する世界…国益が明確でなければ国家は危機に直面する
国家の利益~国益の理論と歴史(1)国際政治経済の激変と日本外交の正念場
小原雅博(東京大学名誉教授)
強いアメリカの退場、ロシア・中国の力による現状変更、統合を揺るがすナショナリズムの台頭とEUの直面する危機。激変する国際政治経済環境の中、「国益」の意味はかつてないほどに高まっている。本シリーズでは、東京大学法学部のゼミで教えている「国家の利益」を中心に、パワー、価値、国際秩序の在り方等について、歴史的・理論的に考えていく。(全16話中第1話)
時間:10分27秒
収録日:2019年3月28日
追加日:2019年6月30日
カテゴリー:
≪全文≫

●永久の同盟国も永遠の敵もいない。永久永遠のものは国益


 皆さん、こんにちは。東京大学の小原です。今回から私の教養講座を始めたいと思います。名前は、「東大『外交』ゼミで考える『国家の利益』」としました。

 私は東京大学の法学部でゼミを開講しています。そのゼミで教えている外交問題、特に「国家の利益」といったことを中心に、これから講義をしていきたいと思います。それでは、よろしくお願いいたします。

 さて、第1回目は「国際政治経済の激変と日本外交の正念場」ということで、お話をします。

 19世紀の半ば、イギリスの外務大臣パーマストンはこう明言しました。

「イギリスには永久(とわ)の同盟国もいなければ、永遠の敵もいない。永久永遠のものはイギリスの利益であり、我々はそれに従う義務がある」

 この言葉が歴史に刻まれてから170年後、この言葉を想起させるような大統領がアメリカに登場しました。ドナルド・トランプ大統領です。彼は就任演説で、「全ての国は自らの国益を最優先にする権利を有する」と述べました。この発言は国際政治の現実を語っただけで、何ら驚くべきことではありません。しかし、それを超大国アメリカの大統領が世界に向けて宣言したことが重大な意味を持つのです。こうした政治的「イズム(主義主張)」が21世紀の世界の政治の潮流となっていくのでしょうか。

 アメリカは、その強大なパワーを、自国の国益のみならず、同盟国や友好国の安全のために使い、そして、「開かれた国際経済システム」や「法の支配に基づく国際秩序」の擁護にも使ってきました。そうした国際益、あるいは世界益を自国の国益であるとまで宣言してきたのです。そこに世界は、「偉大なアメリカ」を見たのです。

 しかし、イラク戦争や世界金融危機でアメリカは傷つき、疲弊しました。その回復を託されたバラク・オバマ大統領は、「世界中で起きる間違いを全て正すのはアメリカの手に余る」と述べて、アメリカがもはや「世界の警察官」ではないことを認めました。その後を継いだトランプ大統領は、歴代政権が「アメリカの産業や軍隊や国境や富を犠牲にして外国を助けてきた」と批判し、「アメリカ・ファースト」を掲げて、「自国民最優先」政策を押し進めています。


●「核心利益」を掲げる中国と統合危機に直面するヨーロッパ...


スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
教養としての「人口減少問題と社会保障」(1)急速に人口減少する日本の現実
毎年100万人ずつ減少…急降下する日本の人口問題を考える
森田朗
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(1)内戦と組織動乱の構造
カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転
東秀敏
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
島田晴雄
台湾有事を考える(1)中国の核心的利益と太平洋覇権構想
習近平政権の野望とそのカギを握る台湾の地理的条件
島田晴雄
過激化した米国~MAGA内戦と民主党の逆襲(1)米国の過激化とそのプロセス
MAGA内戦、DSAの台頭…過激化が完了した米国の現在地
東秀敏
日本の財政政策の効果を評価する(1)「高齢化」による効果の低下
高齢化で財政政策の有効性が低下…財政乗数に与える影響
宮本弘曉

人気の講義ランキングTOP10
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(4)信長の直臣、秀吉の与力としての秀長
最初は信長の直臣として活躍――武闘派・秀長の前半生は?
黒田基樹
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境にどう対峙するか…西洋哲学×東洋哲学で問う知的ライブ
津崎良典
過激化した米国~MAGA内戦と民主党の逆襲(1)米国の過激化とそのプロセス
MAGA内戦、DSAの台頭…過激化が完了した米国の現在地
東秀敏
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(2)プロテスタントと「予定説」
カトリックとプロテスタントの違いは?「救済予定説」とは?
橋爪大三郎
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
人の行動の「なぜ」を読み解く行動分析学(1)随伴性
「なぜ人は部屋を片付けられないか」を行動分析学で考える
島宗理
インテリジェンス・ヒストリー入門(1)情報収集と行動
日本の外交には「インテリジェンス」が足りない
中西輝政
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(4)葛飾応為の芸術と人生
親娘で進歩させた芸術…葛飾応為の絵の特徴と北斎との比較
堀口茉純
平和の追求~哲学者たちの構想(5)カント『永遠平和のために』
カント『永遠平和のために』…国連やEUの起源とされる理由
川出良枝