●国益とパワーと安全の「バランス」とは
皆さん、こんにちは。続いては「国益の確定」について議論をしていきましょう。ここで大事なのは「バランス」、そして「適切な制限」と「全体性」ということです。これらのキーワードをもとに、それでは国家は国益をどう決定すべきだろうかという問いについて考えていきましょう。
リアリズムの立場から国際政治を理論化・体系化したハンス・モーゲンソー(1904~80)という政治学者がいます。彼は、主著『国際政治』(初版は1947年。国際政治の最も基本的な最初の教科書)において、国際政治を国家が「力(パワー)として定義される利益」を追求する権力政治だと論じました。
この概念によって彼は、経済(「富として定義される利益」によって理解される分野)などとは別の独立した領域として、国際政治を位置づけたのです。しかし、国家が追求する「力として定義される利益」とはいったい何でしょうか。力と利益の関係についてモーゲンソーは説明を加えていません。一つだけ明確なことは、国益とパワーの関係が一枚のコインの表裏の関係にあるということです。
●安全よりパワー、パワーより国益を追求した戦時中の日本
以上のモーゲンソーの定理を踏まえ、「死活的国益」、「パワー」、「国家・国民の生存と安全」という三つの要素の関係を私なりに整理してみれば、次のような説明ができます。
この四つの同心円をみてください。「国家・国民の生存と安全」の確保とそのために必要なパワーの追求は、国家の主要目標、すなわち死活的国益と位置付けられます。図1は、これら3要素が等置される理念型です。きれいな円となっています。しかし、国家の置かれている安全保障環境やパワーの大きさは異なるため、3要素の関係も、この理念型を離れて、ここに示したような多様な同心円で表されます。
図2を見てください。これは、安全よりパワーは大きいが、パワーより国益が大きい同心円です。死活的国益を国家・国民の生存と安全以上に拡張し、パワーを無視してその確保に走る膨張主義的国家のケースです。日中戦争から太平洋戦争に突き進んだ日本はその例です。
●安全より国益が大きく、パワーはより大きな覇権国家
次に図3を見てみましょう。ここには、パワーが国益と安全より小さな同心円が描かれていま...